研究実績の概要 |
近年行われている進行胃癌に対する標準的な根治術後化学療法では、主に細胞傷害性のコンベンショナルな抗癌剤(コ抗癌剤)を用いているが、これは視認できないレベルの癌細胞がコ抗癌剤存在下で増殖することで再発が成立していることを示唆している。従って、術後化学療法後の再発抑制には、コ抗癌剤に反応する癌細胞のシグナル伝達経路を対応する分子標的薬を投与する戦略がまず考えられる。本研究では、代表者らが確立した逆相タンパクアレイ法(RPPA)を用いて、濃度や時間経過とともに変化する抗癌剤反応性タンパクの「高次データ」モニタリングを行い、ネットワーク解析の手法を用いて、細胞間に共通の活性化経路、またはコ抗癌剤ごとに誘導される活性化経路を同定し、普遍的あるいは特徴的な分子標的の候補を同定する。 現在まで高次データ取得のために細胞(8種類)×薬剤(4種類)×濃度(3段階)×時系列(5点)×反復実験(4回)=1,920サンプルを回収した。今後これらのサンプルを逆相タンパクアレイ(RPPA)に集積し、300種類以上の抗体を含むライブラリーから免疫染色を行う予定である。画像解析および統計解析についても概ねシミュレーションは完了した。 また、コ抗癌剤投与により出現する薬剤寛容性細胞集団(DTC)を術後再発の起点となる細胞モデルとして解析を進めている。現在まで、シスプラチン投与後または5-FU投与後の再発に関して、抑制的に働くそれぞれの化合物とその標的分子を同定した(Kume et al, Sci Rep, 2016; Ishida et al, Sci Rep, 2017)。これらのスクリーニング段階では、DTCの分子解析のためのColony Lysate Array(CoLA)法を、in vivoの薬剤投与モデルとして、マウスに対するヒト胃癌細胞の異種同所同組織モデルを確立した。
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今後の研究の推進方策 |
コ抗癌剤に対する癌細胞反応性タンパクの定量解析は、臨床的な分子標的薬の選定根拠になるにも関わらず、情報は極めて限定的である。本研究では、日本人胃癌から樹立された胃癌細胞株8種類を用いて、コ抗癌剤反応性タンパクを解析する。また、そのタンパクの反応についてどの程度予測が可能であるか、変異の状態に依存しているかなどの疑問に対応するため、同8細胞株を用いてターゲットシークエンス解析および薬物代謝関連遺伝子の多型解析を行い、コ抗癌剤反応性タンパクとの相関を検証する。また、すでに報告したテーマ(Kume et al, Sci Rep, 2016)から明らかになった抗癌剤反応性タンパク制御における転写複合体の重要性を検証するため、当初提案していた免疫沈降(IP)-RPPAに加え、同一サンプル(コ抗癌剤暴露後胃癌細胞株核抽出物)を用いて探索的検証を行い、IP-RPPA結果との比較を行う。
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