研究課題/領域番号 |
15KK0317
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
西塚 哲 岩手医科大学, 医学部, 教授 (50453311)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 再発癌 |
研究実績の概要 |
いわゆるコンベンショナルな抗癌剤(コ抗癌剤)による癌治療は我が国の進行消化器癌薬剤治療の「標準治療」として広く普及している。しかしながら、再発率は依然30-40%であり、再発に対する対応を確立することが急務である。本研究では、ヒト胃癌細胞株のコ抗癌剤に対する分子反応について、(1)誘導性シグナル伝達解析、(2)細胞亜集団の解析、(3)異種移植モデルの確立、(4)タンパク相互作用技術開発、の点から再発胃癌の包括的解析を試みた。前年度までに(2)(3)については完了し、昨年度は(1)(4)を中心に研究を進めた。 (1)では当初予定していたタンパク解析に加え、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析を加えた。統合的オミクス解析を継続中であるが、遺伝子変異に依存する特異的薬剤反応よりも転写レベル、タンパクレベルでの薬剤反応が再発と関連することが示唆された。特に前年度までの成果で示唆した5-FUへの反応性で重要なPI3Kパスウェイに再度注目し、現在検証を進めている。最終的には薬剤反応をパスウェイ単位での変化と解釈し、5-FU治療を受けた659人の自験例胃癌患者データと比較し臨床的意義を検証したい。 (4)では独自に開発した免疫沈降逆相タンパクアレイを作製した。DNA傷害時におけるp53タンパクの相互作用メンバーが薬剤ごとに異なっていることが示唆された。シグナルの弱さや画像解析など検討の余地はあるものの、一つのタンパクに対して多数の結合パートナーを多条件から定量できるというコンセプトが確認された。 本研究は再発胃癌がコ抗癌剤に抵抗性を持つ細胞集団由来であることを前提とした研究であるが、最終年度は抗癌剤治療後患者の体内腫瘍量から臨床的再発(画像で確認できる再発)を予測するための腫瘍由来循環変異DNAの検出にも着手した。再発癌の統合的理解を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定にはなかったゲノム、トランスクリプトーム解析を加えた統合的シグナル伝達解析に必要なデータ出力が概ね完了した。胃癌細胞株の薬剤反応に対する時系列タンパクレベルの動態を追跡するための逆相タンパクアレイの作製は終了し、画像解析法は複数のプログラミング言語で新規スキャン法による画像解析に進める段階である。また、インフォマティクスによるオミクス統合解析を進め、最終的にタンパクレベルの重要なシグナルに関連する「モジュール」の同定が視野に入った。臨床的意義については、多施設共同研究で集積した胃癌患者サンプルを利用して「モジュール」関連タンパクを免疫組織染色を行い、予後との関連を統計学的に評価する予定である。胃癌サンプルの免疫組織染色はすでに先行研究で600例以上に行っており、そのプロセスに問題はない。免疫沈降逆相タンパクアレイについては、ジョージメイソン大との共同研究で必要な検証を加えて新たな技術として確立する段階に入った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画を立案した時期から癌細胞の分子プロファイリングは大きく進展した。ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームの統合解析から臨床的意義を検証するプロセスは今やスタンダードとなりつつある。本研究でも当初の計画からよりオミクス解析方法へ展開し、胃癌細胞株を用いた薬剤抵抗性メカニズムから、臨床的意義を検証する段階に入った。今年度前半には解析すべきすべてのデータが揃い、胃癌細胞の薬剤反応に重要な「モジュール」を絞り込む作業に移行する予定である。一方、オミクス解析ではノイズが多いデータをうまく最終目的に集約させていく技術も求められる。少なくとも遺伝子変異が独占的に薬剤反応に関与していることは考えにくく、トランスクリプトーム解析からも決定的な遺伝子発現を同定することは困難であると予想される。一方、これらのデータを統合的に理解しなければ、薬剤に反応する分子経路を明らかにすることはできない。最終年度では、集積した胃癌臨床検体での予後解析、および5-FU治療後胃癌患者での体内腫瘍量モニタリングを通したトランスレーショナル研究を推進したい。
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