CB(カンナビノイド)は従来、その精神的作用にのみ注目されてきたが、近年大脳皮質や海馬、小脳において短期的可塑性や長期抑圧を引き起こす伝達物質、retrograde signal として、新たな注目を受けた。バレル皮質においては、皮質第4 層から2/3 層へのシナプス(L4-L2/3)の長期抑圧(LTD)にCB1が関与しており、臨界期の活動依存的な生理学的、形態学的可塑性に重要な役割を果たしていると考えられている。 我々は、これまでにCB1R欠損マウスを用いて、臨界期前の生後7-14日(P7-14)のL4-L2/3シナプスにおいて、従来のスパイクタイミング依存性可塑性(Hebbian STDP)とは異なる長期増強だけのSTDP(all-LTP STDP)が働き、その後LTDを獲得し、Hebbian STDPとなり、そのことが臨界期開始のメカニズムである可能性を示した。さらに同時期の視床皮質シナプスには、LTD だけのSTDP(all-LTD STDP)があり、その後消失する(no LTD)ことを示した(J Neurosci. 2016)。このとき視床にはCB1受容体(CB1R)が発現していることから、このようなSTDPのスイッチは、CB1依存性であると考えられる。また臨界期のバレル皮質では、形態学的可塑性、活動依存的にwhisker mapを形成される。視床皮質投射は、発達期に一時的に表層まで広がるが、直ぐに4 層までに退縮し、L4-L2/3投射では活動依存的にカラム様投射、緻密化を行うことが知られているが、そのメカニズムは知られていない。これらのことから、視床皮質投射、皮質内投射(L4-L2/3)におけるSTDPルールの変化(all-LTD STDP→no LTD; all-LTP STDP→Hebbian STDP)はCB1依存性であるか、またCB1は回路形成にどのような役割があるかを明らかにした。
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