本研究は、悪性骨腫瘍の代表的疾患である骨肉腫の中でも特に抗がん剤抵抗性骨肉腫を対象に、その抵抗性のメカニズムを解明し、新規治療法を開発することを目的としている。我々は先行研究で同定した抗がん剤抵抗性に関わるタンパク質やマイクロRNAのバイオマーカーを治療標的と考え、その阻害剤の抗腫瘍効果について検討を重ねてきた。昨年度は骨肉腫における治療抵抗性のメカニズムを解明するために、チロシンキナーゼ遺伝子を中心にnanoStringによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。今年度はさらに細胞周期関連遺伝子など、その他の発癌遺伝子に対象を広げて解析を行った。骨肉腫は一般的にheterogeneity の強い腫瘍であることが知られており、全例に共通する遺伝子変異は見られなかった。しかし、一部の症例ではチロシンキナーゼであるPDGFRAやKDR、c-kitの発現異常が存在し、これらを標的とするチロシンキナーゼ阻害剤については新規治療の候補となる可能性が考えられた。またTP53・CDKN2A・CDKN2Bをはじめとする複数の細胞周期関連遺伝子が骨肉腫の予後に関連することを明らかとした。またMDM2の発現異常も同定された。 遺伝子異常を認めたチロシンキナーゼについては、プラスミドを作成し、骨肉腫細胞株(HOS/SaOS2)へ恒常的に高発現させた細胞モデルを作成した。そしてこれらのチロシンキナーゼ発現異常が、従来の化学療法に対して抵抗性を認めること、そのチロシンキナーゼを標的とした阻害剤の有用性について検討した。 このようにnanoStringを用いた網羅的遺伝子発現解析により、骨肉腫の予後や化学療法奏効性に関わる遺伝子発現異常を同定した。骨肉腫においては一部の症例で遺伝子発現異常を認めており、遺伝子背景に準じたオーダーメイド医療が有用である可能性が考えられた。
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