研究代表者は、12(S)-ヒドロキシエノイック酸(12-HHT)がGタンパク質共役型受容体であるBLT2の内在性リガンドであることを発見し、12-HHTの生理機能と病態における役割の解明を目的に研究を行っている。12-HHTはアラキドン酸から生合成される生理活性脂質であり、アスピリンに代表されるNSAIDsによって阻害されるシクロオキシゲナーゼ(COX)代謝物であるPGH2から生合成される。エイコサノイドは、刺激に応じて局所で産生し速やかに代謝されるため、エイコサノイドの生理機能をより詳細に明らかにするためには、いつ、どこで、どのくらい産生されるかを明らかにする必要がある。 申請者は、12-HHTを含むエイコサノイドを網羅的に同定・定量するために、HPLCを用いた脂肪酸の分離と質量分析計を組み合わせたLC-MS/MSシステムを確立している。このシステムは分子の特異的な同定と高い定量性を特徴とし、約20分の測定で100個以上の酸化脂肪酸を一斉定量することができる。しかし、臓器や組織を凍結後に破砕してから脂質を抽出して測定するため、目的とする脂質分子の組織中での局在を明らかにすることはできない。そこで本研究課題では質量顕微鏡を用いてエイコサノイドの局在を可視化することで、エイコサノイド産生の時空間機作を明らかにしようと考えた。 国際共同研究を行う米国・コロラド大学のロバート・マーフィー教授は、質量分析計を用いた脂質の生化学解析のパイオニアである。本年度は、準備期間としてロバート・マーフィー教授の研究室に数ヶ月滞在し、LC-MS/MSをも用いたエイコサノイドやリン脂質の測定を行い、基礎的な脂質解析技術を習得した。
|