研究課題/領域番号 |
15KK0321
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
芦野 滋 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (10507221)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2018
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キーワード | 呼吸器疾患 / 重症喘息 / アレルギー |
研究実績の概要 |
研究代表者は、マウスを用いた実験を中心に、気管支喘息の病態がウィルス感染状態において重篤化するメカニズムを、免疫細胞の一種であるヘルパーT (Th) 細胞および気道上皮細胞の機能に着目して解明することを目的としている。 平成30年(2018年)1月渡航予定のため、本国際共同研究強化は本格的には遂行されていないが、準備状況として現在までに、ウィルス感染状態を構築できるよう、ウィルス成分の一つである ’double stranded RNA’ を模倣する人工試薬 poly I:Cを喘息マウスに投与することで、重症喘息モデルの開発に成功している。呼吸機能の一つの指標である気道過敏性は、通常の喘息マウスよりもpoly I:C 投与した重症喘息マウスで顕著に亢進し重症化することを明らかにしている。また、通常喘息では好酸球浸潤性の気道炎症であるのに対し、重症喘息モデルでは、好中球の浸潤を伴った気道炎症に変化することが明らかとなった。さらに、重症喘息モデルの肺内ではTh1/Th17免疫反応に関係するサイトカインの上昇が確認された。これらの病態はヒトの重症喘息の所見に類似していた。現在、このTh1/Th17免疫反応が関与する重症喘息のメカニズム解析を行っている。 また、本国際共同研究強化の研究内容で注目している、喘息の重症リスク関連遺伝子がTh細胞の機能変遷に与える影響を追究しているが、その遺伝子発現の影響を受ける細胞をTh細胞だけではなく、Th細胞機能をサポートする樹状細胞や気道上皮細胞にも範囲を広げて解析を進めており、海外受け入れ機関で行う研究に向けてデータを集積している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年(2018年)1月に渡航予定のため、海外受け入れ機関における実験はまだ開始していないが、本国際共同研究強化に向けて様々な準備を行っている。本研究課題では、Th細胞と気道上皮細胞の機能変遷に関する遺伝子および免疫反応に関わる分子群の情報を捕捉する予定であり、事前に国内でそのサンプル集積などを含め予備的検討の準備を行っている。また、重症喘息マウスの気管支肺胞洗浄液を用いて、オミクス研究(メタボロミクス、プロテオミクス、リピドミクス)により、今まで見逃されていた責任標的分子の同定を目指すため、受け入れ研究機関で稼働可能な解析機器について既に確認済みである。Th1/Th17免疫反応に関係するサイトカイン産生が重症喘息マウスの肺内で増大していることから、現在までに中和抗体を用いてそのサイトカインの役割を一部検討したが、顕著な増悪抑制効果は見られなかったことから、それら以外のサイトカインに注目する必要があると考えている。また、治療標的候補として、気道上皮細胞の機能異常を引き起こす遺伝子にコードされたタンパクを想定しているが、マウスにおいてそのタンパク検出抗体は確立されていないために定量は困難であり、現時点ではreal-time PCRを用いての解析になる見通しである。あるいはTh細胞培養系や気道上皮細胞培養系のin vitro実験において、ゲノム編集技術を用いて各種遺伝子の役割を明確化する解析方法も準備している段階である。
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今後の研究の推進方策 |
本国際共同研究強化においては、ウィルス感染時の気道上皮細胞がどのような挙動を示すか、喘息で中軸的な役割を担うアレルゲン特異的Th細胞がウィルス感染状況下でいかに機能変化しているか、ウィルス感染の足場である気道上皮細胞とTh細胞の相互作用をどのような責任分子群が調節しているかを解明していく予定である。 具体的には、ウィルスあるいはウィルス成分を投与することで重篤化した喘息マウスの肺組織、および通常の喘息マウスの肺組織からTh細胞および気道上皮細胞を単離し、ウィルス感染時に活性化あるいは鎮静化する遺伝子(Th細胞および気道上皮細胞の機能制御に関わる遺伝子)情報を捕捉する。また、それぞれのマウスの気管支肺胞洗浄液についてオミクス研究を行い、炎症悪化や炎症抑制に関わる責任分子群の増減を把握する。喘息増悪リスク遺伝子との関連性についても、遺伝子改変マウスを用いて気管支喘息重篤化ならびに難治化におけるその役割を解析する。そして、喘息増悪因子の有無が、気道上皮細胞のウィルス感染応答およびTh細胞の機能変化に与える影響を精査し、喘息悪化を引き起こす詳細な分子メカニズムを証明する。 以上の種々の解析によって見出された、Th細胞や気道上皮細胞の機能変化に関わるリスク遺伝子やその下流に存在する重要分子群に対する阻害剤あるいは中和抗体により、喘息重篤化を軽減できることを実証し、新規制御法開発に繋げることを目指す。
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