研究課題/領域番号 |
15KK0321
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
芦野 滋 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (10507221)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2019
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キーワード | アレルギー・ぜんそく / ウィルス感染 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、渡航前までに、気管支喘息を重症化させるためには、ウィルス構成成分の、1本鎖RNA (single stranded RNA、ssRNA)ではなく、2本鎖RNA (double stranded RNA, dsRNA)がより重要であることが、各々の人工試薬を用いた実験で確認された。 そのため、渡航中および渡航後の研究では、実際のウィルスを感染させた場合でも同様に気管支喘息重症化にdsRNAが重要であるかどうかを解析した。 まずはじめに、RSウィルスを気管支喘息モデルマウスに感染させて、病態評価を行うとともに、肺組織内の免疫細胞群の解析を行った。その結果、RSウィルスを感染させた気管支喘息マウスでは、有意に気道過敏性が亢進して呼吸機能が低下し、肺への好酸球浸潤の増加に加えて、好中球浸潤も認められ、気道上皮組織における粘液産生も顕著に増大した。このことから、RSウィルス自体が気管支喘息重症化を誘導できることが証明された。 次に、このRSウィルス感染の気管支喘息重症化がdsRNA成分に依存した現象であるかどうかを検討するために、toll-like receptor (TLR) 3ノックアウトマウスを用いて同様の実験を行った。TLR3は、細胞内エンドソームに局在していてdsRNAを認識することができる受容体である。このTLR3ノックアウトマウスを用いた実験では、RSウィルスを投与しても、気道過敏性、好酸球・好中球の浸潤、気道上皮組織における粘液産生などが増大しなかったことから、RSウィルスはTLR3シグナル経路を刺激して気管支喘息の重症化を促進している可能性が推察された。 現在、このTLR3シグナルに依存した気管支喘息重症化メカニズムを、サイトカイン依存性や免疫細胞群の機能変化の観点から解析を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外受け入れ機関において、風邪症候群を引き起こすウィルスでもあるRSウィルスの増幅・精製・力価測定等の実験技術を習得することができ、本研究課題は、現在のところ、順調に遂行できていると考えている。また、各種遺伝子改変マウスの繁殖等も受け入れ研究機関で問題なく行われていたため、in vivo 実験の解析も中断することなく行うことができた。 本研究では、ヘルパーT細胞と気道上皮細胞の機能変化に関する遺伝子および免疫反応に関わる分子群の情報を捕捉する予定であり、ヘルパーT細胞の機能変化については予備的データが得られている状況である。一方で、RSウィルスの最初の感染場所は主に気道上皮組織であるため、今後、受け入れ研究機関で習得した、気道上皮細胞の単離技術や培養技術を用いて、ウィルス感染が誘導する気道上皮細胞の機能変化についても随時解析していく予定である。 さらに、RSウィルス感染時における気管支喘息重症化マウスにおいて、免疫細胞の一つである自然リンパ球ILC2についても予備的データが得られているため、継続して解析を遂行できるよう準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本国際共同研究強化では、RSウィルス感染時に気管支喘息が重症化することがモデルマウスを用いて確認されている。また、TLR3シグナル経路を介して気管支喘息の病態が悪化することも明らかになった。 今後、肺組織内でどのような免疫細胞が病原性細胞となり気管支喘息を重症化させるかを解明するために、前述した、ヘルパーT細胞、ILC2、気道上皮細胞の相互作用にも焦点をあてて解析を続けていきたいと考えている。 また、ウィルス感染によって重篤化した気管支喘息の一部の患者群では、ステロイド薬にも抵抗性を示し難治性の病態となり得ることが臨床研究でも報告されているため、本研究で作製したRSウィルス感染重症喘息モデルが同様に難治性病態になっているかどうかも検討し、そのメカニズムも解析していく予定である。また、ウィルス応答性免疫反応(ウィルスのクリアランス)が、重症気管支喘息患者で低下しているという報告もあるため、実際にRSウィルスを感染させた重症喘息モデルマウスの肺組織におけるウィルス残存量を、plaqueアッセイやPCR法を用いて測定していく予定である。
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