研究課題/領域番号 |
15KK0323
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
藤田 真由美 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 主任研究員(定常) (80580331)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2017
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キーワード | 細胞浸潤 / 放射線照射 |
研究実績の概要 |
重粒子線治療は、これまでの臨床研究で高い抗腫瘍効果が示されているが、治療効果を更に向上させるためには、治療後の再発及び浸潤・転移をいかに抑制できるかが重要である。申請者らはこれまでに、ヒト癌細胞株31種を用いた研究により、炭素線照射は大多数の細胞株の浸潤抑制に効果的であるが、ヒト膵癌由来細胞株PANC-1においては浸潤能を増加させることを明らかにした(Fujita et al., Cancer Sci., 2014)。 本課題の最終目的は、臨床応用を視野に、重粒子線抵抗性浸潤細胞の抑制方法を提案することである。そのため、PANC-1細胞全体のうち、特に炭素線抵抗性浸潤細胞群が生体内の腫瘍組織でどのような挙動を示すか、また癌の微小環境へ与える影響について、マウスの系や共培養の系を用いて明らかにすることが不可欠である。この研究を格段に進展させるため、現在、アメリカ国立衛生研究所、国立癌研究所のWink A. David博士と国際共同研究を進めている。 研究代表者(藤田真由美)は平成29年3月21日に渡米後、放射線抵抗性浸潤細胞群が癌の微小環境へ与える影響を検証する予定であったため、平成28年度は、渡米後にどの微小環境の細胞に焦点を置くか情報を得るため、PANC-1の浸潤細胞を回収し、細胞全体と比較したDNAマイクロアレイ解析を行なった。浸潤細胞と全体の細胞を比較することで、例えば浸潤細胞では免疫細胞や線維芽細胞に影響を与えるサイトカインの発現量が高いなどの情報が得られる。その情報を元に、どの種類の免疫細胞や線維芽細胞と共培養実験するのが良いか予測することができる。日本での実験は全て終了し、現在は微少環境に影響を与える因子を中心に、Wink博士と共に発現データの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
来年度からWink博士のラボで研究がスタートできるよう、今年度は日本にて準備をした。Winkラボでは放射線抵抗性浸潤細胞群をマウスへ移植する実験を計画している。まず、放射線抵抗性浸潤細胞群を準備する方法を考えた。放射線抵抗性浸潤細胞群の特徴である一酸化窒産生細胞を作成することを考え、PANC-1細胞に一酸化窒素合成酵素(NOS)を強発現させることを立案し、Wink博士の研究室で試して頂いた。しかし強制発現の系では細かなNOの濃度を調整できず細胞毒性が出てしまったため、この系を用いることは断念した。同時に日本で進めていた若手B研究課題(15K19833)により、PANC-1の全体集団の中で浸潤できる細胞集団は、炭素線照射に対し抵抗性である結果が得られた(予備実験)。すなわち、PANC-1を用いて浸潤アッセイをし、マトリゲルを超えて浸潤した細胞集団を集めることで、放射線抵抗性浸潤細胞群を回収することができる。そのため、渡米後の放射線抵抗性浸潤細胞群の回収には、PANC-1の浸潤細胞を回収する方法を用いることにした。 米国では、放射線抵抗性浸潤細胞群を用いてマウスの実験をするだけではなく、免疫細胞や線維芽細胞などと共培養することで癌の微小環境へ与える影を明らかにすることを計画している。渡米後にどの微小環境の細胞に焦点を置くか情報を得るため、今年度はPANC-1の浸潤細胞を回収し、細胞全体と比較したDNAマイクロアレイ解析を行なった。浸潤細胞と全体の細胞を比較することで、例えば浸潤細胞では免疫細胞や線維芽細胞に影響を与えるサイトカインの発現量が高いなどの情報が得られる。その情報を元に、どの種類の免疫細胞や線維芽細胞と共培養実験するのが良いか予測することができる。実験は全て終了し、現在は発現データを解析している。 さらに業務補助員を雇用し、来年度日本での実験が進むよう実験指導をした。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は1年間、NIHのWink博士の研究室で共同実験を行う。まずは、放射線抵抗性浸潤細胞群であるPANC-1浸潤細胞をトランスウェルから回収し、マウスに投与する。予備実験にて、マウスの脚にPANC-1細胞を移植する異所性移植モデルでは腫瘍の成長が遅く、in vivoの系として適さないことがわかっている。そのためWinkラボでは、マウスの膵臓にPANC-1細胞を移植する同所性移植モデルを教えて頂く予定である。PANC-1全体の細胞群と比較し、浸潤細胞群では腫瘍形成能や転移能に違いがあるか検証する。もしもPANC-1全体の細胞集団と比較し、浸潤細胞群を移植した際にマウスの腫瘍形成や転移能に違いが確認されるようであれば、若手Bの結果から得られた放射線抵抗性浸潤細胞群の浸潤能抑制や殺傷に効果がある薬剤を併用し、腫瘍の成長や転移能が低下するか検証する。 また、今年度取得したDNAマイクロアレイの結果を解析し、PANC-1の浸潤細胞では全体の細胞集団と比べ、免疫細胞や線維芽細胞に影響を与えるサイトカインの発現量に違いがあるか明らかにする。サイトカインの量などに違いがある場合は、その情報を元に、どの種類の免疫細胞や線維芽細胞と共培養実験するのが良いか予測し、それら細胞群と共培養する系を立ち上げる。さらに、日本の研究スタッフと協力し、Incucyte Zoomを用いてリアルタイム画像を取得し、浸潤細胞がどのように他の種の細胞に影響を及ぼすか観察する。 若手Bの研究は細胞レベルでの研究であったが、Wink博士らと共同で研究を進めることで、より生体に近い、in vivoや共培養の結果を得ることができ、臨床応用を視野に、重粒子線抵抗性浸潤細胞の抑制方法を提案できる。
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