転写因子Nrf2は抗酸化や解毒代謝に関わる酵素群の遺伝子発現を誘導する。我々はこれまでに、Nrf2欠失ラットを用いて、食品中に含まれるカビ毒アフラトキシンB1の解毒代謝にはNrf2が重要であることを示した。ヒトにおけるアフラトキシンB1の慢性曝露は肝臓がんを引き起こすことが知られており、これは実験動物としてラットにおいてよく再現される。そこで、アフラトキシンB1による肝臓がん発症におけるNrf2の必要性を調べるため、野生型ラットとNrf2欠失ラットにアフラトキシンB1の反復投与を行った。アフラトキシンB1の毒性は、曝露時の尿中や血中の代謝物で評価する。Nrf2欠失ラットは、野生型ラットでは毒性を示さない投与量に対して非常に脆弱性を示し、大半が数週間で死亡した。死亡を免れたNrf2欠失ラットでは、野生型ではみられない肝硬変の症状を示した。Nrf2欠失細胞はアフラトキシンB1曝露により死滅して、肝星細胞の活性化により線維化が進行したと考えられる。よって、野生型における肝臓がんの発症にはNrf2が必須であると考えた。実際に、多くのがん細胞ではNrf2の異常な活性化が観察されており、アフラトキシンB1による肝臓がんにおいても、Nrf2の遺伝子変異など何らかのNrf2活性制御システムの破綻が考えられる。そこで、アフラトキシンB1を投与した野生型ラットを長期飼育し、低容量で肝臓がんを発症するか否かを観察した。低容量のアフラトキシンB1でも野生型ラットでは肝臓がんを発症した。野生型ラットにおける腫瘍においてNrf2の発現に関わる遺伝子変異を解析している。
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