ガン温熱化学療法に適用すべく、スルホベタインポリマーをベースとしたナノキャリアの設計合成、また細胞の生化学的な評価・知見を得るためカナダ・モントリオールに所在する2つの大学に渡航し、研究の展開を図った。ガン細胞へ主に透過で導入されると考えられるスルホベタイン-ポリエチレングリコールランダムコポリマーは、ガン細胞のみならずマウス大脳皮質より採取した正常神経細胞およびグリア細胞においてもポリマーの取込が可能であった。またミトコンドリア指向性分子の修飾により、ミトコンドリアへの迅速な導入にも成功した。さらに脳内の免疫を司るミクログリア細胞へも導入され、リポ多糖により刺激したマウスミクログリア細胞株を用いた評価では、ポリマー自身がミトコンドリアの代謝活性に影響を与えることなく炎症に関与する一酸化窒素の産生を有意に抑制しうることを示した。これらの知見はミトコンドリア病へのキャリアとして展開が期待できる一方、ガン細胞に対しても今後免疫細胞の抑制化制御の知見に基づく新規概念を有したナノキャリアの設計につながると期待できる。一方でこのポリマー自体は末端構造が細胞内導入効果に影響を与えうること、また生理条件下で熱応答を示さないことから、分子間の相互作用を強化したスルホベタインポリマーの合成を行った。このポリマーのナノサイズの会合体形成に成功するとともに、処理温度および溶液の塩強度を精密に制御することで温熱療法に用いる磁性粒子、また抗ガン剤の内包にも成功し、この抗ガン剤が生理条件下の薬物放出特性を熱応答により変化しうることを明らかとした。
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