研究課題/領域番号 |
15KK0330
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
許 東洙 筑波大学, 医学医療系, 助教 (20616651)
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研究期間 (年度) |
2016 – 2017
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キーワード | atrial fibrillation / obesity / hampt |
研究実績の概要 |
当研究は、心房細動の重要な危険因子である加齢と肥満に共通した鍵分子であるNamptが心房細動の発症・進展に関わる上流因子であると仮説を立て、Nampt/NAD+/Sirtuin系が心房細動の発症にどのように関わっているのか分子学的機序を立証すると同時に、心房細動に対する新たな予防的治療を確立することを目的としている。今までの実験結果では、 Nampt+/-はその同腹子に比べて2倍以上の心房細動誘発率と持続時間を示した。また、高脂肪食群はそれぞれの通常食群に比べてされに心房細動の誘発率と持続時間を増加させた。Namptタンパク質と遺伝子発現、そしてその構成要素であるSirtuin-1とPPAR-γはNampt+/-で有意に低下し、高脂肪食群でさらに低下した。また、カルシウムハンドリング関連の(RyR, Seraca, Phospholamban)遺伝子発現・タンパク発現もNampt+/-群で有意に低下しており、高脂肪食群でさらに低下した。病理所見では、Nampt+/-群で繊維化が有意に進んでおり、高脂肪食群でさらに繊維化が進んでいた。心筋細胞を用いた共焦点イメージングによるカルシウム動態解析と3Dマッピングによる心筋活動電位(APD)、有効不応期測定は現在実験中であり、暫定的結果としてはNampt+/-群と高脂肪食群ではカルシウム一時的スパークとミニウェーブおよびカルシウムウェーブが有意に増加して、APDとERPは有意に短縮傾向があることが示された。今までの結果を見ると、Nampt欠損マウスは、高脂肪食の摂取と同様なメタボリック症候群類似の病態を惹起し、心臓で構造的理モデリングを進行させ、カルシウムハンドリング異常によって電気的理モデリングの進行に影響を与え、心房細動が起こりやすい基質の形成に重要な役割を果たすことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで1~5までの実験(1. 肥満モデル動物に対するNampt阻害薬の効果:in vivoでの電気生理検査 2. NAD+ biogenesis Assay 3. アディポサイトカインの測定 4. 心房における遺伝子・タンパク発現解析 5. 病理組織評価)をおおむね終了しました。その結果をまとめると、(1)高脂肪食のマウスでは心房細動誘発率が高く、誘発された心房細動の持続時間が有意に延長し、心房の有効不応期が有意に短縮する、(2)血中アディポサイトカインが高脂肪食群で有意に増加し、病理学所見では、線維化が高脂肪食群で著しく進行する、(3)心房組織でのNampt抗体による免疫染色所見では、細胞内Namptの発現が高脂肪食群で有意に低下する、(4)心房細動発症に関連しているギャップジャンクション蛋白Connexin-40の発現は高脂肪食群心房組織で有意に発現が低下し、その分布も不規則になる、(5)カルシウムハンドリング関連遺伝子であるRyR2、SERCA2a、CaMKIIは高脂肪食群で有意に上昇し、酸化型 CaMKII、2814セリン残基リン酸化型RyR2およびリン酸化SERCA2も有意に高脂肪食群で上昇していることが明らかになった。今年度中に1.のNampt阻害薬のin vivoにおける電気生理およびWestern blottingを再度施行し、再現性を確認する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、(1) マウス生体や心筋細胞を用いた膜電位・カルシウム同時イメージングにより、肥満や高脂肪食によって生じる電気生理学的現象を視覚的に解析する。また、現在進行中の申請課題「心房細動におけるNampt役割の解明」において計画した実験に加えて多電極アレイを導入し、さらに電気生理学的機序を詳細に解析する。このシステムによってin vitroにおける心筋細胞シート上、あるいはex vivoにおける心臓組織上の多数のポイントで電位を記録することが可能となり、幅広い高感度な電気生理学的解析が可能となる。これらのシステムを併用し、(2) 肥満あるいは高アディポサイトカイン状態によって生じる電気生理学的現象がNampt/NAD+/Sirtuin系によってどのような変化を来すのか、特異的阻害薬あるいはノックダウン法によって明らかにする。(3) さらに、肥満・高アディポサイトカイン状態によって生じる電気生理学的現象について、CaMKII、RyR2のdominant negative変異体を導入した心筋細胞を用いて再度計測することによって、CaMKIIあるいはRyR2がNampt/NAD+/Sirtuinの直接的な標的分子であることを直接的に証明する。さらに、(4) 心筋伝導能を指標として、どのような阻害薬や活性化薬が心房細動抑制に有効なのか化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、心房細動持続に関与する標的分子を明らかにするとともに治療薬開発や予防法への応用を目指す。
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