歯根膜は歯と歯槽骨の間に介在する膜状の非石灰化組織であり、咬合機能において重要な役割を果たしていることから、その維持/再生は本邦が目指す健康長寿実現のために欠かすことのできない課題のひとつである。 歯根膜の恒常性は、極めて早い組織の代謝回転によって維持されており、豊富な幹細胞の存在が重要な役割を果たしていると考えられているが、歯根膜組織中に存在する多様な構成細胞のそれぞれの局在を含めた詳細が不明であることが研究を困難とし、恒常性維持機構の解明と再生への道のりを阻んでいる。 歯根膜は発生学的には神経堤細胞に由来する歯原性間葉から分化すると考えられてきたが、我々は神経堤由来細胞の数が加齢とともに減少すること、さらに歯根膜の血管近傍に存在する幹細胞の一部は骨髄に由来し血行性に供給されることを明らかにしている。つまり歯根膜には、リモデリングの過程で血行性に供給される幹細胞が血管近傍では幹細胞としての特性を維持し、必要に応じて組織深部へと遊走し特定の歯根膜構成細胞へと分化する運命決定機構が存在することを示唆している。 本研究課題では歯根膜組織中に存在する組織幹細胞の分化系譜を解析するために、蛍光プローブを使用した細胞の長期追跡を可能とする実験系を確立し、現在その解析を進めている。
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