研究課題/領域番号 |
15KK0340
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
繁冨 英治 山梨大学, 総合研究部, 助教 (00631061)
|
研究期間 (年度) |
2016 – 2018
|
キーワード | ペリシナプスグリア / アストロサイト / カルシウム / ドパミン / 線条体 / アセチルコリン / カルシウム感受性蛍光タンパク / 二光子励起レーザー顕微鏡 |
研究実績の概要 |
新規アストロサイト特異的カルシウム感受性蛍光タンパク質(Lck-GCaMP6f)発現遺伝子改変マウスを用いることにより、神経活動依存的なペリシナプスグリアの応答様式を解析した。細胞質型であるcyto-GCaMP6fをアストロサイト特異的に発現する遺伝子改変マウスを用いることにより、細胞膜型と細胞質型の間で検出されるカルシウム応答の相違を検討した。成熟マウスから得られる急性脳スライス標本を用いて背外側線条体に位置するアストロサイトのカルシウム活動を二光子励起レーザー顕微鏡により観察・解析した。大脳皮質から背外側線条体への入力経路を電気刺激して神経活動依存的なカルシウム応答を検出した。Cyto-GCaMP6fに比較してLck-GCaMP6fはより空間的に広範な領域のカルシウム活動を検出した。電気刺激誘発カルシウム応答の発生メカニズムを薬理学的に検討した結果、ムスカリン受容体及びドパミンD1/D5受容体活性化を介することが示された。アストロサイト特異的に発現させた新規AChセンサーによって神経活動依存的なACh放出が検出された。背外側線条体のアストロサイトは、AChに対して反応せずドパミンには反応することから、神経活動依存的なACh放出により、ドパミンの遊離が促進され、その結果としてアストロサイトのD1/D5受容体活性化されるカルシウム活動が惹起されることが示された。電気刺激により中型有棘神経細胞ではグルタミン酸遊離を介したAMPA/KA受容体を活性化が起こる一方、アストロサイトのカルシウム応答はAMAP/KA、NMDA、及び、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR2/3及びmGluR5)の何れも介さなかった。以上の成果は、大脳皮質から神経活動が背外側線条体に入力した際に、アストロサイトは、隣接する中型有棘神経細胞と異なる神経伝達物質を受容してその活動が惹起されることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規アストロサイト特異的カルシウム感受性蛍光タンパク質発現遺伝子改変マウスを用いた解析により、背外側線条体においてこれまで見出されていなかったドパミンを介したアストロサイトのカルシウム活動が見出された。アストロサイトのカルシウム活動を惹起するドパミンの遊離はアセチルコリンによる調節を受けるものと考えられた。このことから複数の神経伝達物質を介した精緻な細胞間コミュニケーションの存在が示唆された。当初の予定を変更して、背外側線条体のアストロサイトにおけるペリシナプスグリアの神経活動応答様式を解析したものであるが、本研究の大きな課題の1つである「ペリシナプスグリアが神経活動にどのように応答するか」、という課題には一定以上の成果を与えたものと考える。本研究成果は、成熟動物から得た標本を用いたものであることから、背外側線条体のシナプス伝達異常がその主要な病態メカニズムと考えられているパーキンソン病やハンチントン病の病態を解明する上で基礎的な知見を与えると考える。渡航期間6ヶ月と当初の予定より短期間ではあったが、神経活動依存的なペリシナプスグリアのカルシウム応答の新規メカニズムの一端を明らかにしたことから、順調に研究は進展したと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度の研究において明らかとなったドパミンを介したペリシナプスグリアのカルシウム応答が①ドパミン神経選択的刺激で起こるか、そして②ドパミン依存的カルシウム応答の機能は何かという2つの課題に取り組みたい。組織内においてドパミン神経を選択的に刺激するために、光遺伝学的手法を採用する。AAVベクターを用いて、黒質ドパミン作動性神経細胞にチャネルロドプシン2を発現させる。青色光照射によって惹起されるアストロサイトのカルシウム応答を解析する。また同様の実験系にて中型有棘神経細胞の興奮性を電気生理学的に検討する。アストロサイトにおける光刺激誘発カルシウム応答の意義を明らかにするために、アストロサイト特異的にカルシウム応答を遺伝学的に欠損させる。このアストロサイトカルシウム応答の遺伝学的欠損が、光刺激によって誘発される中型有棘神経細胞の興奮性に与える影響を解析する。光遺伝学的手法は、受入研究室及びその共同研究先において蓄積されている情報をもとに行う。アストロサイトのカルシウム応答の遺伝学的欠損法は受入研究室で開発された方法を用いる。研究が効率的に推進できるように、必要な試薬類等の事前準備を受入先に要請し、次の渡航後に速やかに実験を開始する。
|