研究課題
中枢神経系の情報伝達処理における最小単位はシナプスである。このシナプスは、情報伝達物質を放出するシナプス前終末と情報伝達物質を受け取るシナプス後要素からなる。このシナプスの多くはペリシナプスグリアによって取り囲まれている。ペリシナプスグリアは、シナプス由来の情報を受け取ってカルシウム応答し、また反対にシナプスへ情報を与える能力を有する。このことから、ペリシナプスグリアによるシナプス活動の制御機構を理解することは、シナプス機能更には脳機能を理解する上で重要と考えられる。しかしながら、ペリシナプスグリアがシナプスを制御するメカニズムの詳細には不明な点が多い。ペリシナプスグリアは微細な構造であるため、従来からの測定技術ではその活動を詳細に解析することが困難なことが問題であった。Lck-GCaMP6fは、細胞膜移行型カルシウム感受性蛍光タンパク質であり、ペリシナプスグリアの活動を鋭敏に検出することできる。このLck-GCaMP6fをアストロサイト特異的に発現する遺伝子改変マウスを用いて、シナプス(神経)活動依存的なペリシナプスグリアの活動様式を明らかにすることが本研究の目的である。本マウスは共同研究先において利用可能となっていたため、共同研究先に渡航し、当該遺伝子改変マウスを用いたin situカルシウムイメージングを行ってきた。本年度は渡航せず、これまでに得たデータの解析及び今後の方策について検討した。また、渡航先研究者と今後の研究推進方策について議論した。当該マウスに関する論文が公表されたことから、今後は山梨大学へ導入も検討する。
2: おおむね順調に進展している
神経活動依存的なペリシナプスグリアの応答様式が、脳部位によって異なることを明らかにした。神経回路に依存したペリシナプスグリアの応答様式及びその基盤となる分子的及び構造的メカニズムの一端を明らかにした。一連の研究成果を国際学術誌に報告した。
アストロサイト特異的Lck-GCaMP6f発現遺伝子改変マウスは、本マウスの作出及び利用に関する論文が公表されたことを受けて広く利用可能となった。今後は山梨大学への導入も検討して、更なる研究の推進を図りたい。山梨大学にて実験を行う環境も整えつつある。ペリシナプスグリアの神経活動に対する応答性を検出する上でLck-GCaMP6fの優位性が示された(Stobart et al., Neuron 2018)ことから、自身が得た実験データと比較検討することにより新たな知見に結び付けたい。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Neuron
巻: 95 ページ: 531-549
10.1016/j.neuron.2017.06.029