中枢神経系の情報処理における最小単位であるシナプスの多くは、ペリシナプスグリアによって取り囲まれている。このペリシナプスグリアは、シナプスからの情報を受容する能力およびシナプスに向けて情報を発信する能力の両方を有することから、シナプスにおける情報処理と密接に関連すると想定されている。非常に微細な形態であるペリシナプスグリアの活動を計測する技術として、細胞膜移行型カルシウム感受性蛍光タンパク質、Lck-GCaMP6f、をアストロサイト選択的に発現する遺伝子改変マウスを用いた解析を行った。当該遺伝子改変マウスを用いてペリシナプスグリアのCa2+シグナルを解析した。これまでに背外側線条体における、刺激誘発応答がドパミン受容体1/5型(D1/5)拮抗薬によって抑制されることから、ドパミンを介したシグナル伝達が起こる可能性が示されていた。しかし、ドパミン受容体の機能的局在がペリシナプスグリアにあるのか、それとも、ニューロンにあるのか不明であった。背外側線条体を含む急性スライス標本を作成し、二光子励起レーザー顕微鏡下において、Lck-GCaMP6fを発現したアストロサイトのCa2+シグナルを観察した。ドパミン投与により非常に大きなCa2+応答が観察された。一方、D1/5受容体アゴニスト投与では顕著なCa2+応答は得られなかった。以上の結果は、ドパミンによるCa2+応答には、D1/5受容体以外のドパミン感受性機構(ほかのドパミン受容体及びドパミントランスポーター)が寄与すると考えられた。今後も共同研究先のUCLA生理学部門Khakh研究室と共同で、背外側線条体のペリシナプスグリアにおけるシナプス情報制御メカニズムを解析する予定であり、研究成果をまとめて共著論文として国際誌に報告する。
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