研究課題
心房細動を維持するエンジンである渦巻き型旋回興奮波(ローター)の重要な特徴であるさまよい運動特性に着目し、臨床電気生理検査で使用される多電極・アブレーションカテーテルから得られた電位のみからローターを検出するシステムを新規に作成し、基課題で提唱した「ローター自体をターゲットにするのではなくローターの移動経路遮断と投錨(定在)領域への心筋焼灼が、心房細動を停止させ、細動の慢性化を未然に防ぐ」という画期的治療法を飛躍的に発展させ、臨床応用するための技術基盤を構築することを最終目標として研究を開始している。当該年度は①申請者が開発し特許申請済みの解析手法である位相分散解析(ローター検出法)がローターを容易に検出すること、更に、ローターの再分極相に沿った弱い電気刺激の添加によってローターを容易に停止させることを発見した。上記の結果を米国心臓病学会で発表し、論文 (Am J Physiol Heart Circ Physiol.)として公開した。次に、②ローターのさまよい運動が虚血/梗塞領域に制限される心房虚血/梗塞誘発心房細動モデルを使用して、心房細動を維持する主要な興奮様式の同定を試みた。心房虚血/梗塞誘発心房細動の発生機序に酸化ストレスが大きく関与することを発見した。酸化ストレスによるリアノジン受容体異常による撃発活動から心房細動が発生することを証明した。ダントロレン(リアノジン受容体拮抗薬)の投与が、撃発活動の出現頻度を抑制し、興奮様式を単純化することで結果的に細動の発生を抑制することを米国不整脈学会・日本不整脈心電学会・日本循環器学会の年次集会で発表し、論文(Circ Arrhythm Electrophysiol.)として公開した。
1: 当初の計画以上に進展している
本申請の核をなすローターの新たな検出手法(位相分散解析)を発見し、当該年度は論文としてまとめ報告した。更に、心房細動を維持するローターを容易に観察することが出来る心房梗塞誘発心房細動モデルを確立し、渡航先のブラウン大学でデーター解析・論文作成を行い、論文として発表した。当初の計画以上に研究は進展しており、1年間の渡航期間を若干短縮し既に帰国している。現在は残りの研究計画をより進展させるために(ローター検出プログラムの発展と、同プログラムを使用したアブレーション機器の開発)、名古屋大学環境医学研究所(医学系)から東京大学大学院医療福祉工学開発評価センター(工学系)に移籍し研究を継続している。
当初の計画では、帰国後はコンピューターシミュレーションを用いて電位記録のみから検出したローターに対するアブレーション治療法の効果判定を予定していたが、研究計画が順調に進展したことで、国際学会での発表と論文作成が予定より早く終了している。今後は、当初の研究計画以上に研究を進展させていくことを考え、現在の所属先である東京大学医療福祉工学開発評価センターに大型動物まで評価可能な光学・電極同時マッピングシステムを構築中である。既に、実験システムの基本構造の構築を終了し、予備実験を開始している。申請者が専門とする光学マッピングは、不整脈を直接眼で診ることのできる簡便な手技であるにもかかわらず、日本におけるこの分野からの研究報告数は基礎電気生理学者の不足から著しく少ないのが現状である。国際共同研究加速基金の目的に則って、構築した国内外の学術コミュニティメンバーと共に研究の完遂を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Circ Arrhythm Electrophysiol.
巻: in press ページ: in press
10.1161/CIRCEP.117.005659.
Am J Physiol Heart Circ Physiol.
10.1152/ajpheart.00558.2017.
Circ J.
巻: 81(10) ページ: 1411-1428
10.1253/circj.CJ-17-0128.
http://www.bmpe.t.u-tokyo.ac.jp/index.html#2