診断方法や治療薬の改善によって、世界的には乳がん罹患率が低下している。その一方で、生活習慣の欧米化などの影響により、日本の乳がん患者数は増加を続けている。特に、早期発見された乳がんの治療効果は高いが、転移を伴う進行がんが生存率を大きく低下させる原因となっている。このことから、転移能を司る分子の機能解析は抗がん剤の標的分子を考える上でも重要なポイントである。申請者が所属した米国Vanderbilt大学Lannigan研究室では、乳腺上皮細胞の運動を促進するRSK2を対象とした研究を行なっている。最終年度に実施した研究は以下の2点である。 (1) 昨年度までの結果から、RSK2には核外移行シグナルがあり、RSK2は増殖因子刺激によって核移行するとともに、同時並行で、積極的に核から排出されていることが示唆された。そこで核外輸送シグナル候補配列に変異を導入した発現ベクターを構築し、増殖因子刺激による細胞内局在への影響の解析を行った。候補配列2箇所に変異を導入したが、いずれも核に限局した局在は示さなかった。少なくとも1つの変異導入部位はキナーゼドメインの中に存在するため、変異が立体構造に影響した可能性があり、さらなる検討が必要である。 (2) 愛媛大学乳腺センターとの共同研究として、乳がん患者さんの摘出組織から正常部位を頂き、日本人由来のオルガノイド培養系の確立を始めた(倫理委員会審査済み)。マトリゲル上に培養した乳腺細胞は2週間の培養ののち、細胞塊を形成させることができた。またホルマリン固定後に内腔細胞マーカーであるp63での染色が認められたため、得られた細胞塊の一部は内腔細胞の形質を保持していると考えられた。
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