本研究は、基課題において開発した微小環境応答性および組織透過性を有するリポソームであるCTR-SAPSPリポソームを基盤として、腫瘍深部に存在するがん幹細胞を効果的に死滅可能なナノメディシンを開発することを目的としている。 2018年度は、CTR-SAPSPを修飾した核酸封入lipid nanoparticles (LNPs)のスフェロイド透過性を評価した。蛍光標識small interfering RNA (siRNA)封入LNPsに従来型SAPSPあるいはCTR-SAPSPを修飾し、両者のスフェロイド透過性を比較した結果、CTR-SAPSP修飾LNPsは、著しく高い透過性を示した。 前年度、幹細胞の生存維持に必要なAkt-mTORシグナル経路の阻害が可能なナノメディシンの開発を目指して、リポソームが細胞内に取り込まれた後にAkt阻害剤が放出可能なライソソーム内酵素カテプシンB切断配列LECとAkt阻害剤を連結させたペプチドStearyl-LEC-Aktinを搭載したリポソームを構築したため、2018年度は、そのAktリン酸化に対する影響を検討した。しかし、リポソームに搭載可能なStearyl-LEC-Aktinが少量のため、本リポソームによるAktリン酸化の阻害は認められなかった。そこで、Akt阻害を介して細胞死誘導が可能な2種の脂溶性Akt阻害剤を封入したリポソームを構築した。また、幹細胞の生存維持に必要なHedgehog経路阻害剤であるシクロパミンの水溶性誘導体IPI-926の幹細胞に対する効果をtumor sphere 形成によって評価した結果、複数種の細胞株において、IPI-926処理によって幹細胞の死滅を示すsphere形成阻害が認められたことから、IPI-926搭載ナノメディシンの幹細胞に対する有効性が期待できる。
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