研究課題/領域番号 |
15KK0358
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
橋本 健志 立命館大学, スポーツ健康科学部, 教授 (70511608)
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研究期間 (年度) |
2015 – 2018
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キーワード | 脳内代謝 / 認知機能 / 高強度間欠的運動 / 実行機能 / 乳酸 / 動静脈較差 / メタボローム |
研究実績の概要 |
生体内乳酸濃度を外的に調節することで、脂肪や筋組織のみならず、脳など、生体制御に極めて重要な組織におけるエネルギー代謝を正に制御し得る可能性が考えられる。実際に、最近我々は、脳の主要なエネルギー源である乳酸が、運動による認知機能亢進の生理的要因である可能性を示唆する結果を得ている(Tsukamoto et al., Physiol Behav 2016)。そこで本研究は、脳内乳酸代謝が認知機能亢進に及ぼす影響や、生体内乳酸濃度変化に対する各組織・器官の代謝動態の詳細をヒトにおいて明らかにし、脳機能亢進を含めた統合的アンチエイジングのための学術的基盤形成に極めて重要かつ独創的な新規のアプローチを推進することを目的とする。 高強度運動を間断的に繰り返し実施する高強度間欠的運動を、1時間の休息を挟んで2回実施すると、1回目の運動と比較して2回目の運動による乳酸産生量が少なくなる。そして、同じ運動強度、実施時間、運動様式の運動であるにもかかわらず、2回目の高強度間欠的運動のように乳酸産生量が少なくなると、亢進した認知機能の持続性が損なわれてしまう。このメカニズムを解明するため、共同研究機関で動脈と頸静脈にカテーテルを挿入し、乳酸、グルコース、酸素やモノアミンなどの動静脈較差を算出することにより、運動中のヒト脳内代謝や組織内代謝動態を測定する研究アプローチを推進した。その結果、骨格筋から産生される乳酸量に比例して、脳の乳酸取り込み量が増減することが確認された。さらに、脳の乳酸取り込み量が減少すると、運動後の実行機能亢進の持続性も減退することが明らかとなった(Hashimoto et al., FASEB J 2018)。この結果は、乳酸という運動誘発性の代謝物が、骨格筋と脳の機能相関に介在している可能性を示唆するものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
運動による認知機能亢進の持続性に、運動誘発性の乳酸産生量が重要な役割を担っている可能性が示されたものの、高強度間欠的運動中ならびに運動後の脳内代謝動態については不明であった。そこで、上記の脳内代謝動態を把握すべく、共同研究機関で、動脈と頸静脈にカテーテルを挿入し、乳酸、グルコース、酸素やモノアミンなどの動静脈較差を算出することにより、運動中のヒト脳内代謝や組織内代謝動態を測定する研究アプローチを推進した。その結果、末梢に由来する全身性の乳酸濃度と脳の乳酸取り込みが関連することが明らかとなった。また、脳の乳酸取り込みが減少すると、運動後の実行機能の亢進が持続しないことが明らかとなった。この結果は、学術論文に公表することができた(Hashimoto et al., FASEB J 2018)。 一方、脳の乳酸取り込みが、必ずしも脳での乳酸代謝を反映しているわけではない。そこで、安定同位体を用いて、運動に対する乳酸代謝(酸化利用)と実行機能との関係性を精査する必要がある。当該年度に一次データを取得し、解析を進めてまとめる予定であったが、完遂できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト生体内の乳酸濃度調節は、運動や乳酸サプリメント摂取、乳酸の静脈内注射によって施行する。その際、脳組織を含めた、各組織(脳の場合、動脈と頸静脈にカテーテルを挿入)での動静脈の乳酸を含めた代謝物や酸素の摂取量(摂取率)をモニタリングすることで、乳酸濃度調節に対する身体の生理的適応を詳細に解析する。併せて、認知機能テストを施行し、生体内の乳酸濃度変化に対して脳内の乳酸代謝動態がどのように変容し、どのように認知機能に影響するかを明らかにする。特に、今年度は、乳酸の静脈内注射によって高まる血中乳酸濃度の増加が、実行機能に及ぼす影響について、重点的に調査する。 また、グルコースならびに乳酸の安定同位体を用いて、実際に脳で代謝利用された乳酸(グルコース)と実行機能との関係性について詳細に解析する。 さらに、メタボローム解析によって、高強度間欠的運動による脳の代謝産物についての網羅的解析を推進する。
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