研究実績の概要 |
生体内乳酸濃度を外的に調節することで、脂肪や筋組織のみならず、脳など、生体制御に極めて重要な組織におけるエネルギー代謝を正に制御し得る可能性が考えられる。実際に、我々は、脳の主要なエネルギー源である乳酸が、運動による認知機能亢進の生理的要因である可能性を示唆する結果を得ている。そこで本研究は、脳内乳酸代謝が認知機能亢進に及ぼす影響や、生体内乳酸濃度変化に対する各組織・器官の代謝動態の詳細をヒトにおいて明らかにし、脳機能亢進を含めた統合的アンチエイジングのための学術的基盤形成に極めて重要かつ独創的な新規のアプローチを推進することを目的とした。 共同研究機関で動脈と頸静脈にカテーテルを挿入し、乳酸、グルコース、酸素やモノアミンなどの動静脈較差を算出することにより、運動中のヒト脳内代謝や組織内代謝動態を測定する研究アプローチを推進した。その結果、脳の乳酸取り込み量が減少すると、運動後の実行機能亢進の持続性も減退することが明らかとなった(Hashimoto et al., FASEB J 2018)。この結果は、乳酸という運動誘発性の代謝物が、骨格筋と脳の機能相関に介在している可能性を示唆するものであった。 また、高強度間欠的運動では、脳自己調節機能は保持されていることを明らかにした(Tsukamoto et al., MSSE 2019)。さらに、高強度間欠的運動前後でのヒト脳内代謝をメタボローム解析によって網羅的に解析することを推進した。 一方、脳内代謝は運動のみならず、低酸素などの外的環境ストレスによっても変動し、それによる認知機能も変化すると考えられる。そこで、こうした環境因子と生体内ストレス反応との関係性を、代謝をキーワードに概観するアプローチを推進した。
|