研究課題
流域土地利用と下流域への微量金属輸送の関係性を明らかにするため,三陸の複数河川を対象として,土地被覆が溶存微量金属負荷に及ぼす影響について検討した。その結果,森林植生,農地,都市など土地利用が異なることで負荷量が変化し,特に水田や都市部からの微量金属負荷が高い値を示した。これは,森林などの自然由来のみならず,集水域の人間活動が微量金属負荷に影響を及ぼすことを示している。汽水域の到達する直近の河川水を対象に,河川水中の物質の沈殿・不溶化の特性を調べた。汽水域で生じる凝集は,河川淡水域で懸濁態として存在する物質が凝集の主要な因子であり,河川水中で溶存態として存在している有機物がそれに続く因子であった。また,これらの因子が除かれると不溶態がほとんど形成されなくなることが示された。凝集を引き起こす有機物の中では,フミン様有機物のある一部の有機物が,海水混合後の数秒から数分という短時間のうちに凝集を引き起こすことが示唆された。凝集に伴う金属の挙動は(Fe),(Mn),(Al, V),(Ni, Cu, Zn)4類型に分類された。特に鉄は懸濁態や凝集体が存在すると不溶態になりやすく,また,さらに振盪条件,すなわち粒子同士の衝突が頻繁に生じる場合に不溶態になりやすかった。さらに,自然由来の有機物の発生源としての森林と農地の土壌に,擬似河川水を用いて土壌抽出液を採取し,そこに擬似海水を加えることによる溶存態有機物の量的・質的変化を調べた。その結果,森林の樹種や農地の作物種の違いが,これらの変化に影響を与えることを明らかにした。以上の通り,当初予定していた河川・沿岸域への微量必須金属・有機物流出モデルの構築までには至らなかったが,モデル構築に資する有用なデータが得られた。
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