研究課題/領域番号 |
15KT0028
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
大津 直子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40513437)
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研究分担者 |
河野 祐介 筑波大学, 高細精医療イノベーション研究コア, 研究員 (40558029)
大津 厳生 筑波大学, 国際産学連携本部, 准教授 (60395655)
丸山 明子 九州大学, 農学研究院, 准教授 (70342855)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2020-03-31
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キーワード | 硫黄 / チオ硫酸塩 / 大腸菌 / 酵母 / シロイヌナズナ / イネ / システイン / サルファーインデックス |
研究実績の概要 |
<シロイヌナズナ>1)硫黄源を硫酸とチオ硫酸にした際の遺伝子レベルでの応答を網羅的に調べるために、マイクロアレイ解析を行った。酸化還元調節をつかさどる多くの遺伝子発現が変動していた。Cys-rich proteinをコードする複数の遺伝子の発現が上昇しており、システインの利用が進んでいると考えられた他、窒素代謝に関与する遺伝子発現も上昇していた。2) 硫黄欠乏に応じた代謝変換を司る転写因子SLIM1がカドミウム処理時の硫黄動態変化に果たす役割を解析した。その結果、カドミウム処理時の硫酸イオン吸収の増加、ファイトケラチンの蓄積、にもSLIM1が寄与することが分かった。3) 平成28年度に選抜した植物が活用できる硫黄源について、これらを植物体に処理した時の植物の成育を比較し、サルファーインデックス解析、硫酸イオン量の測定、硫黄同化系酵素の遺伝子発現解析、を行った。<イネ>シロイヌナズナではチオ硫酸による栽培で少しバイオマスの減少が観察されたが、イネでは硫酸と同様に良好な生育が観察された。根において、チオ硫酸、亜硫酸、硫化物イオン、過硫化システインの増加がみられ、還元的な硫黄が増加していると考えられた。<大腸菌>新規なチオ硫酸の同化経路を平成27年度で発見した。平成29年度はその成果を国際英文誌に投稿し採択された(Kawano et al., 2017 ) 。その後、硫酸塩単一硫黄源でもチオ硫酸塩が生成できていることや、分裂酵母のHmt2欠損株が硫酸塩単一硫黄源で生育できないことを見出した。このことは、これら微生物が硫酸塩からチオ硫酸塩を合成している可能性が示唆されたため、これまでに報告されていない新規なチオ硫酸合成酵素を探索することを開始した。<サルファーインデックス解析法>構造上ビマン修飾はされないが、硫黄代謝の鍵となる分子種の検出系の追加を実施した(チアミン、タウリン等)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物において、チオ硫酸に対する応答を、代謝産物と遺伝子発現両方のレベルで調べることができ、そこから植物のチオ硫酸代謝経路が示唆されてきた。また、チオ硫酸以外の硫黄源についての応答も、遺伝子発現レベル、代謝物レベルで調べることができた。大腸菌においては、新たなチオ硫酸代謝経路を同定したことが国際誌に受理された。さらに、サルファーインデックス解析法の改良も行った。
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今後の研究の推進方策 |
植物においては、硫黄源をチオ硫酸とすることにより、硫酸の場合と比べて、システインを豊富に含むタンパク質が増えていることが、マイクロアレイの結果から示唆された。Cys-rich peptideは重金属の解毒に貢献することが知られている。また、還元的な硫黄が増えていたことから、酸化ストレスへの耐性が強化される可能性も示唆された。今後はチオ硫酸を硫黄源とした際の、重金属および酸化ストレス耐性を調査する。また、その他の硫黄源で栽培した際の植物体内の総硫黄量を求め、これまでに得られたデータを元に、各種硫黄源の利用経路を予測する。各種硫黄源を組み合わせて処理することにより、成育を最大にする処理条件を見出す。これら結果について論文を投稿する。 大腸菌ではのcysK欠損株(単一硫酸塩で生育できない)に分裂酵母、カビ、糸状菌などの微生物のcDNAライブラリーを導入し、硫酸塩単一硫黄源で生育できる遺伝子を同定し、安価な硫黄源である硫酸塩(20円/kg)を積極的に高価なチオ硫酸塩(140円/kg)に変化し、私たちヒトを含む動物にとって必須な含硫アミノ酸(システイン、グルタチオン、エルゴチオネイン)の発酵生産への応用を目指す。 シアノバクテリアでは、硫黄源を硫酸塩やチオ硫酸塩としたときの硫黄代謝動態を解析し、システイン生産能等を評価する。 サルファーインデックス分析については、研究推進過程で重要となる硫黄代謝産物が生じた場合には、検出対象として迅速に登録し、実際に、微生物・植物の試験サンプルの測定に適用可能にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
筑波大学のグループでは、本年度は論文投稿に時間を要したため、研究費の執行率は81%となった。また、平成28年度の繰り越しがあるため、平成29年度の配分費は100%執行している。最終年度は計画通り執行する。またシアノバクテリアにおける硫黄代謝に関する研究項目が計画より進捗せず、その分は、硫黄代謝物種の定量分析系(サルファーインデックス解析)の改良の研究に当てた。結果として、培養や育種に関する計上費用に関する支出が抑えられ、その予算は次年度に繰り越した。 九州大学のグループでは、投稿を予定している論文の執筆が平成29年度内に完了しなかったこと、計画に関わる一部の経費が他予算により充当できたこと、年度内発注の物品類で3月の納品に間に合わないものがあったことから、一部を繰り越すこととした。 繰り越した予算は、進捗が遅れている研究項目の推進を加速するための人件費やキット・試薬類の支出に充当する。これにより、最終的には計画通りの予算執行と研究実践および成果取得を図る。
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