研究課題
環境との調和を指向した低窒素型農畜産業の意義と可能性について検討した。(1)京都府の野菜農家の圃場の29件の土壌分析を行い、現在の土づくりが農業・環境双方にとっても改善の余地がある現状が明らかにされた。千葉県富里市における無肥料栽培圃場とその対照圃場各3件の土壌中の養分存在量・収支と微生物群集に与える影響を比較した。無肥料栽培圃場は、慣行栽培と比べ、土壌中の易分解性炭素、可給態窒素、無給態リン、交換性カリウム、並びに無機態窒素ともに有意に低い水準にあり、作物であるニンジンの収量、全窒素、全カリウム、全リンも概ね低かった。ただし、CN比については、無肥料栽培の方ややや高かった。窒素収支は、無肥料栽培のニンジンの窒素吸収量のほとんどが大気下降物量で占められ貧栄養状態にあったが、微生物群は、慣行栽培圃場とは明らかに異なり、AM菌も腐生菌の割合も高く、限られた養分と有機物を効率よく利用していることがわかった。無肥料栽培の作物は、「自然」「ほんもの」で食品の安全性や健全性を求める消費者に訴求され、収益的安定性を実現していることもわかった。(2)放置山林を開拓した山地(やまち)酪農の可能性を評価するために、消費者の選好と態度を調査し、その意義を伝えることで山地酪農牛乳に対する選好が高まる可能性が確認されたが、現状としては、放牧や牧草のみによる飼育をアピールすることで、LOHAS層だけでなく、食に対する好奇心の強い層や普通の消費者層へのマーケティングの必要性が指摘された。(3)環境と調和した農業は、淡路島が「環境立島」を掲げ、その中核として循環型農業が推進されるなど、政策的位置付けは高いが、その実情は、農業や農家の変容とのバランスが難しく、比較調査した奈良県・大和高原の茶生産においても小規模に限られること、消費者の支持の獲得が難しいことが指摘された。
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