研究課題/領域番号 |
15KT0043
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
西川 佳代 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (00276437)
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研究分担者 |
宮澤 俊昭 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 教授 (30368279)
樫澤 秀木 佐賀大学, 経済学部, 教授 (60214293)
岡庭 幹司 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 准教授 (60272407)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 間接強制 / 紛争 / 諫早湾 / 司法の役割 |
研究実績の概要 |
平成27年度は研究開始初年度として、これまでの紛争経緯の整理を行う目的で、3回の研究会を開催した。 まず、法社会学の側面からは、諫早湾干拓事業の歴史的変遷を新聞報道や県が発行したパンフレットなどをもとにまとめ、その中で、食料問題対策として諫早湾の干拓が目指される時期から市街地の水害防止対策が前面に出される時期への変遷があり、国側の管轄もそれにともない国交省と農水省および長崎県が交錯していたことが明らかになった。また、そもそも排水門設置・干拓を決定するプロセスにおいて、十分な議論がなされていないことがあらためて浮き彫りになった。このような経緯の中で、現在裁判所で争われている「紛争」をどのように位置づけるべきかが今後の課題となる。 また、民事手続法的な面では、これまでの裁判例(訴訟、保全、執行および執行関係訴訟)を審級別、時系列で整理する作業を行うとともに、当事者の裁判所での主張・立証の変遷を明らかにするために訴訟記録の収集を行った。 特に、平成26年に出された営農者・漁業者双方に間接強制を認める最高裁判例(H27.1.22平成26年(許)17号、26号)に関しては、従来議論されてきた間接強制の要件としての「債務者の意思のみで履行することが可能な債務」という概念について、日・独の裁判例および学説を検討した。ここから得られた観点から判例を見ると、「事実上の障害」が何を指すのかについては必ずしも明確になっていないことが判明した。また、間接強制に関しては、その法的性質論や間接強制金の上限についても検討を始めたところである。その他、国、漁業者、営農者が裁判所における一つのテーブルで対話をする可能性として、特に独立当事者参加の可能性について、和解的判決および福岡高裁平成22年12月6日判決の意義、および最近の裁判所の積極的な和解歓試をどのように見るか、などの課題が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体としての紛争経緯の解明のほか、法社会学、民法学、民事訴訟法学のそれぞれのパートから問題点の抽出を行い、3回の研究会ですりあわせを行うなど概ね計画通り進展しているといえる。ただ、現在進行中のケースをもとにしていることから、裁判所や当事者に影響を与えないように観察することが必要となり、当初予定していたインタビュー等の時期を勘案する必要が出てきている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成27年度と同様、それぞれのパートからの分析を継続する予定である。 また、新聞報道等によれば、近時、裁判所の強力なイニシアティブにより交渉フォーラムセッティングが行われているように見受けられる。その方策の訴訟法的観点からの研究が今後必要になるが、それと同時に、紛争過程および政策決定分野への司法関与の限界を明確にするため、憲法および政治学的観点からの検討が必要となると考えられる。そのため、平成28年度からは、新たに当該分野の研究分担者を増やして対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の交付内定が7月であったため、実際の研究費使用が8月以降となり、実質8ヶ月程度であったことにより、海外出張のめどが立たなかった。また、紛争の経緯から、インタビューの実施時期を遅らせざるを得なかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度実現できなかった海外出張のほか、平成28年4月より追加された2名の研究分担研究者の物品費および旅費とする。
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