研究課題/領域番号 |
15KT0047
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
中野 裕二 駒澤大学, 法学部, 教授 (10253387)
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研究分担者 |
森 千香子 一橋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (10410755)
浪岡 新太郎 明治学院大学, 国際学部, 准教授 (40398912)
園山 大祐 大阪大学, その他の研究科, 准教授 (80315308)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | フランス / 共和国 / 紛争 / 移民 / イスラーム / 家族 / 文化 / 教育 |
研究実績の概要 |
本研究は、移民問題を社会経済的要因、文化的要因、国際的要因に基づく「国内社会における成員間の紛争」という視点で捉え直し、フランスを素材として、公権力と移民当事者との間に存在する、移民および移民出身者をめぐる紛争の本質の捉え方と紛争解決のアプローチの仕方に関するズレまたはねじれの構造を明らかにすることを目的としている。 本研究では、移民の移住から定住・世代継続に深く関わる「移民政策・受入政策」「住居・家族」「教育」「文化・イスラーム」の4分野に絞って、このズレとねじれの構造を明らかにし、さらに、公権力の側の文化的統合の強調や紛争解決の原則面からのアプローチが日常生活上の紛争のプラクティカルな解決を困難にしている実態を明らかにする。 研究目的を達成するための第1の方法は、「フランス的統合」を提唱し統合政策を提案した「統合高等審議会」の報告書全体を精査し、公権力にとっての移民統合の障害事例、その問題点、目指すべき政策とその期待される効果を経年変化とともに明らかにすることであり、第2の方法は、移民当事者に対する実態調査によって、移民当事者にとっての統合の問題、必要とされる政策、紛争解決のアプローチの仕方を明らかにすることである。 平成27年度は第1を中心に研究活動を行った。報告書精査の結果、1990年代までは統合の阻害要因として、経済社会的要因や差別の問題を重要視していたのに対し、2000年代に入ると、イスラームを問題視し、特定の移民出身者集団の宗教的表現の要求が統合の阻害要因であると捉えるように変化したことが明らかになった。それに伴って、社会経済的統合から文化的統合へと公権力の関心が移動していること、統合政策の対象も移住者から移民出身のフランス人の若者へと移動しているという傾向が明らかになった。報告書の精査が終わっていない部分もあるので、平成28年度前半は報告書精査を完了させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況としてはおおむね順調である。研究計画では、統合高等審議会報告書全てを「移民政策・受入政策」「住居・家族」「教育」「文化・イスラーム」の4分野に分け、各自が内容を精査し、まとめ、報告すること、平成28年度の本格的な現地調査のための予備調査を行うこととしていた。研究代表者と研究分担者がそれぞれ4分野の責任者となり、研究協力者とともに審議会報告書を精査し、研究会において内容を発表し、全体で議論した。報告書の精査は8割方終了した。研究会の実施実績は、平成27年8月、10月、12月(東京)、平成28年1月(大阪)、3月(パリ)である。また、平成28年度の現地調査の準備調査として平成28年2月~3月にかけてフランスにおいて現地調査を行った。ただし、報告書精査が終わらなかった部分については、現地調査を十分に実施できなかった分野もある。 当初計画からの遅れの理由の第1は、審議会報告書精査のポイントと詳細度についての調整に時間を要したことにある。研究会で審議会報告書の精査結果を報告し、内容について知見を共有し議論したが、精査のポイントと適切な詳細度について合意を得ることに時間を使い、内容精査への本格的な取りかかりに時間を要した。 理由の第2は、分野間の負担の不均衡である。統合高等審議会の1991年から2013年の報告書までを精査の対象としているが、2000年代以降、「文化・イスラーム」分野の報告書が多く、分担者の負担が過多になり、精査に時間がかかった。 理由の第3は、研究組織内での議論の成熟度の不足である。審議会報告書について、公権力にとっての移民統合の障害事例、その問題点、目指すべき政策とその期待される効果については内容精査ができたが、それがどのような意味をもつのか、フランスの社会モデルのどのような変容を表しているのかについての研究組織全体としての議論が少々不足したと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況欄に記載した平成27年度の問題点に対して、平成28年度は以下のような方策により研究を推進していく。 平成27年度に予定していた統合高等審議会報告書の内容精査が終了していない部分については、平成28年7月までに終了させる。さらに、「教育」分野と「文化・イスラーム」分野については研究協力者を計3名追加して、報告書内容精査を進めていく。 平成28年度は、現地調査を本格的に開始する年度にあたるが、海外研究協力者との連携を強化する。「教育」分野と「文化・イスラーム」分野については、現地調査においても調査対象・範囲が広いと予測されるので、人員を増やし重点的に研究体制の強化を図る。 さらに、報告書内容の精査から内容の変化の確認はできたが、それがどのような意味を持つのか、フランスの社会モデルのどのような変容を表しているのかいないのかについて、研究組織全体での議論の充実を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況欄に記載した通り、平成27年度完了予定であった報告書内容の精査が完了しなかったため、現地調査を十分に開始できなかった分野がある(「教育」分野と「文化・イスラーム」分野)。そのため、予定していた研究旅行のための旅費予算が十分に執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
推進方策欄に記載した通り、「教育」分野と「文化・イスラーム」分野に研究協力者を計3名増員し、審議会報告書の精査および現地調査にあたる。7月までに精査を終え、現地調査を行う予定であり、当該予算はそれに充てる。
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