研究課題/領域番号 |
15KT0055
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小松崎 民樹 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (30270549)
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研究分担者 |
寺本 央 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (90463728)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 化学反応動力学 / 力学系理論 / ネットワーク理論 / 情報科学 / 異性化反応 / 電子解離反応 / 遷移状態 |
研究実績の概要 |
本研究では法双曲的不変多様体の崩壊と呼ばれるカオス理論の概念を用い,化学反応のダイナミクスを位相空間上で展開し、系全体のエネルギーの増大とともに反応の経路が反応座標から非反応座標へと切り替わる新奇な分岐現象を見出すとともに、一様な電場と磁場を直交させた状況下で水素原子から電子が解離する反応を例にその実験的な検証方法を提案することに成功した。高校の化学の教科書でも学ぶアレニウスの式 (1884年)から現在に到るまで,化学反応の理論はエネルギーや温度を上げることでどれくらいより速く反応が進むかということを見積もることに注力してきたが、反応そのものの経路が切り替わるという現象はこれまで発見されていなかった。反応の経路が切り替わる現象自体は,3自由度以上の反応系一般に成り立つ普遍的なものであるため,より複雑な化学反応の経路の切り替えを予測し,新たな反応制御の手法が可能となることが期待されている。 近年、計算化学、一分子計測など、計算・実験両面で反応ネットワークを直接抽出する方法が開発されてきた。しかしながら、得られたネットワークのノード数は数十から数百万あり、どのように複雑なネットワークから背後のキネティックスを取り出すのかは未解決の問いとして残されていた。本研究では、ネットワーク上に定義された任意の分断面のなかでその往来の時間スケールが最も遅いものを“ネットワーク遷移状態”として定義し、ネットワークから反応時間の階層構造を抽出する方法を開発することに成功した。アリルビニルエーテルのクライゼン転位反応ネットワークに適用し、律速段階近似や迅速平衡近似では評価できなかった、反応系での構造エントロピーによる安定化を正しく評価することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に進展しており、Phys. Rev. Lett., Nonlinearityなどの数理物理系の著名な雑誌に化学反応の普遍的な力学構造に関する研究成果を掲載することができた。反応経路のスイッチング現象に関しては、日経産業新聞(2015年9月30日)の一面「化学反応 外部エネで変化」に大きく取り上げられ、月刊「化学」からも原稿執筆の依頼を受けた(2016年5月号)。また、複数の化学反応から構成される化学反応ネットワークに対する大域的な遷移状態の導出に関しては、情報科学者との共同研究であり、第一著者の院生は第9回分子科学討論会優秀ポスター賞(2015)、第31回化学反応討論会ベストポスター賞 (2015)などを受賞している。
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今後の研究の推進方策 |
反応経路のスイッチングに関しては、より複雑な化学反応系への応用、量子効果の考察を展開する予定である。また、反応ネットワークの化学反応速度論に関しては、1万ノード程度の大規模な異性化反応ネットワークを解析することができるようなアルゴリズムの開発を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、博士研究員として雇用予定していた英国ワ―ビック大学数学科で博士号を取得された研究者がご尊父が脳に腫瘍ができたとのことで病気療養する必要性が発生し、身の回りの世話をするものとして、海外での研究生活を断念せざるを得ない状況となった。適任者が急に見つからなかったため、次年度に別の人物を雇用することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
博士研究員雇用に使用する計画である
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備考 |
反応経路のスイッチング現象に関しては、日経産業新聞(2015年9月30日)の一面 「化学反応 外部エネで変化」に大きく取り上げられ、月刊「化学」からも原稿 執筆の依頼を受けている(2016年5月号)。
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