研究実績の概要 |
化学反応に分子の電子状態の変化が伴う場合には、非断熱遷移の影響も考慮する必要がある。昨年度、非断熱交差近傍を2行2列のハミルトニアン行列表現で表し、(交差がどれくらい一般的に生起し得るかの指標に相当する)余次元が従来知られていた0の交差パターンからこれまで知られていなかった7までの全交差パターンを応用特異点論により分類した。本年度は、バンド交差近傍の結晶表面における可能なすべての結晶点群の対称性(Cn (n = 1, 2, 3, 4, 6), Cnv (n = 2, 3, 4, 6), Cs)と時間反転対称性の下、余次元10までの交差パターンを新規に導出した。バンド交差の幾何学を理解するということは、例えば、微小な外場により交差の幾何学はどう変化し、電子伝導が如何に制御できるかを把握することに繋がり、トポロジカル絶縁体の物性予測と制御、新規光化学制御に繋がるものと期待される。
F1-ATPaseはATP加水分解に駆動されて回転する分子モーターであり,分子構造変化と複数の中間反応を巧妙に組み合わせることで,効率よく化学エネルギーを回転の力学エネルギーに変換することができる。我々は,温度変化がγサブユニットの回転角度揺らぎ、およびリン酸解離,ATPの加水分解過程の反応キネティックスにもたらされる影響をランジュバン方程式+マルコフ遷移モデルにより解析した。温度上昇に伴い回転角度揺らぎが局所熱平衡分布から外れ非平衡性が大きくなり、角度揺らぎの記憶が消失することなく次の反応待ち過程へ移行すること等を新規に明らかにした。従来、加水分解とリン酸解離の2つのステップは独立なポアソン過程として考えられてきたが、平衡から外れた状況ではこの仮定が成立せず正しく反応速度定数を見積もることができない可能性を示唆している。
この他、1分子計測に関するデータ駆動型解析理論を構築しその有用性を検証した。
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