氷Ihのバルクの結晶構造は完全に解明されている.水分子の配向には長距離秩序が存在せず,これはプロトン無秩序性と呼ばれている.果たして氷Ihの表面もバルク同様にプロトン無秩序の状態にあるのか,あるいは表面では何らかの秩序が実現しているのか,まだ明らかになっていない.我々はヘテロダイン検出和周波発生分光法を単結晶氷Ihの表面に適用し,OH伸縮領域の振動スペクトルを測定した.同様の測定はオランダのグループからも報告されたが,彼我の結果は位相がπ/2異なり,全く相容れないものとなった.我々の結果は,水分子が水素を空気側に向けた“上向き”の配向を優勢とするプロトン秩序が表面に存在することを示唆している.
|