研究実績の概要 |
本研究の目的は,「理論計算による遷移状態制御に基づく金属間協同作用(触媒機能)の理解と深化」を鍵として,異種二核金属錯体 を触媒とする不活性分子の革新的変換反応を開発することである。前年度までに,6,6"-bis(phosphino)terpyridineをN,P-多座配位子とするAl-Pd錯体が特徴的な構造と,高いシラン活性化能を持つことを明らかにした。本年度は引き続き詳細な検討を行い,本アルミニウム-パラジウム錯体が低反応性分子である二酸化炭素のヒドロシリル化において,従来の報告を凌駕する世界最高の触媒活性(TON = 19300/h, 室温,常圧) を示すことを明らかにした。また,反応中間体であるヒドリド錯体について詳細に構造解析とDFT計算を行い,支持配位子をアルミニウムとした時だけ,他の13族金属(ガリウム,インジウム)の場合よりも,そのトランス位にある結合が大きく伸長することや,極めて高いイオン結合性を持つことを明らかにした。さらに,N,P-多座配位子上の置換基を多様に変えることにも成功し,それらの適切にチューニングした錯体を用いることで,様々なカルボニル化合物のヒドロシリル化反応やアルコールの脱水素シリル化反応が進行すること,またその反応性が通常のパラジウム錯体触媒系とは異なることを明らかにした。これらの結果は,異種二核金属錯体の特異な触媒機能を実証し,合成化学における有用性を示したものとして大きな意義を持つ。
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