研究実績の概要 |
前年度までに、置換キノリンの水素化において、一般にロジウムやルテニウム微粒子を触媒として用いると5,6,7,8-テトラヒドロキノリンが選択的に生成するのに対し、ブレンステッド酸を触媒量添加すると1,2,3,4-テトラヒドロキノリンが選択的に生成することを見出した。そこで、様々な光学活性ブレンステッド酸の存在下でロジウムあるいはルテニウム触媒を用いて2-フェニルキノリンの水素化を試みた。 入手容易な光学活性ブレンステッド酸であるカンファースルホン酸や各種キラルカルボン酸の存在下でロジウム-炭素触媒を用いてキノリンの水素化を試みた。しかし、ベンゼン環部位が水素化されたものが選択的に得られ、目的とするキラルな生成物はほとんど得られなかった。また、近年光学活性ブレンステッド酸触媒として広く利用されている各種光学活性3,3'-置換ビナフチルリン酸を添加した場合、27% eeで目的の2-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロキノリンが得られたが、収率は低く、ベンゼン環の水素化が主に進行した。そこで、上記で用いたキラルブレンステッド酸の酸性度が十分に高くないのではないかと考え、より酸性度の高い光学活性スルホンアミドを文献既知の手法で合成し、その存在下での水素化を試みた。ロジウム触媒を用いた場合は、ベンゼン環あるいはピリジン環が水素化された生成物がほぼ当量得られ、エナンチオ選択性の発現はほとんどみられなかった。一方、ルテニウム触媒を用いた場合、ピリジン環が水素化された生成物が選択的に得られた。また、ビナフチル部位の3位および3'位に3,5-二置換フェニル基を導入したスルホンアミドを利用した場合に、立体選択的に水素化生成物が得られ、その鏡像異性体過剰率は33%であった。以上のように、光学活性ブレンステッド酸を利用することにより、金属担持触媒による反応の遷移状態が制御可能なことを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
今回得られた知見から、3,3'-二置換-1,1'-ビナフチル構造をもつ一連の光学活性スルホンイミドを合成し、それを用いてキノリンの不斉水素化を試みる。これらの実験からブレンステッド酸触媒の構造と立体選択性との構造活性相関を考察し、それに基づいていくつかの新たなスルホンイミドを設計・合成する。それらを利用して水素化を試み、キノリンの不斉水素化の立体選択性の向上をはかる。 これと同時に、今までにブレンステッド触媒として試していない光学活性スルホン酸を用いて水素化を試み、ビナフチル構造をもつ光学活性スルホンイミド以外の金属担持触媒によるキノリンの水素化の立体化学制御に有望なブレンステッド酸触媒を探索し、それをベースとした新しい有機触媒の開発を目指す。
|