研究実績の概要 |
1,10-フェナントロリンパラジウム触媒を用いたチェーンウォーキング機構を経る触媒反応に関して、アルケン挿入段階における位置選択性についての理論化学計算による研究を行った。具体的には、アリールパラジウム種と一置換アルケンとの反応について、1,2-挿入が起こり直鎖型の生成物を与える場合と2,1-挿入が起こり分岐型の生成物を与える場合のそれぞれの遷移状態について検討した。1,2-挿入が起こる場合にはアルケン上の置換基とアリール基の間の立体反発が起こることで、アリール基がやや配位子側に近づくことがわかった。また、2,1-挿入が起こる場合にはアルケン上の置換基が1,10-フェナントロリン配位子の2位の水素と近くなるため、遷移状態においてもアルケンの炭素-炭素二重結合部位はパラジウム原子と配位子からなる平面からやや傾いていることが分かった。これらの知見を基に、様々な含窒素二座配位子を用いた検討を行ったところ、配位子の立体的、および電子的特徴によって選択性が異なってくることが示唆された。一方、アルケン類のチェーンウォーキングを経る官能基化反応についての実験化学的検討も行っている。とくに一置換アルケンを用いた場合には位置選択性の制御が困難であったが、配位子の立体的、および電子的特徴によってその位置選択性に変化がみられることわかった。さらに、実験による結果として位置選択性の比較的高い配位子を用いて理論化学計算を行った場合にも、位置選択性の向上を示唆する結果を得ることができた。
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