研究課題
本研究では、生体膜と(プロテオ)リポソームとの以下の差異に着目して、生体膜を創成することを目的としている。(1)リポソームでは 膜タンパク質が無秩序かつ自発的に膜挿入する、(2)リポソームは機械的強度、化学物質に対する耐性度が膜小胞より著しく低いという差異がある。28年度からは、実際に生体膜を創成する条件の検討を目指し研究を進めた。(1)に関する研究では、コレステロールが無秩序な自発的膜挿入を抑制する効果があること、一方スフィンゴミエリンには自発的膜挿入を上昇させる働きがあることを見出した。これらは、コレステロールやスフィンゴミエリンの新しい機能であるといえる。さらに、コンピュータ・シミュレーションにより、膜内でのコレステロールとジアシルグリセロールのそれぞれの存在位置が極めて類似していることが明らかとなった。そのため、コレステロールのよる自発的膜挿入抑制機構はジアシルグリセロールによるものと類似していることが考えられる。(2)に関しては、高濃度MgやPEG等の化学物質がリポソーム凝集に及ぼす効果を定量的に評価する系の構築したため、リポソームに強度を与える物質の精製を進めている。現在までに目的因子はクロロホルム・エタノール・水(3/7/4)の溶媒で効率よく抽出できること、尿素で半分以上の因子が抽出できること、界面活性剤オクチルグルコシドに易溶であることが判明し、これらの抽出物をリポソームに再構成すると高濃度MgやPEGに対する耐性度が大幅に上昇することが明らかとなり、因子の可溶化・再構成のシステム構築が完了した。今後更なる精製を進め、因子の構造を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
コレステロールによる自発的膜挿入の抑制については、ジアシルグリセロールによる抑制と同様の機構で進むことを論文として報告することができた。膜に強度を与える因子の生成については、機能評価システムを構築した後、因子の抽出条件と再構成条件を決定することができた。これから高純度標品を精製して構造解析を行うが、十分量の高純度標品を用意するのにもう少し時間が必要であるため「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
(1)自発的タンパク質膜挿入の抑制については、フォスファチジルコリン(PC)リポソームにおいてはジアシルグリセロールとコレステロールだけでは不十分な可能性が強いため、PCリポソームでの自発的膜挿入を完全に抑制するために必要な因子の検索を行う。リポソームに強度を与える因子に自発的膜挿入抑制効果があるかどうかも調べる。(2)に関しては、構造解析に十分な高純度精製標品を調製し、構造決定を開始する。
菌体回収用の大容量遠心ローターが故障したため、修理費としておおよその見積額を前倒し申請したが、結局予想より安価で修理できたため次年度使用額が生じた。この予算は、生体膜に強度を与える物質の精製を加速するための材料費や謝金として使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~sec/