研究課題
本研究では、生体膜と(プロテオ)リポソームとの以下の差異に着目して、生体膜を創成することを目的としている。(1)リポソームでは 膜タンパク質が無秩序かつ自発的に膜挿入する、(2)リポソームは機械的強度、化学物質に対する耐性度が膜小胞より著しく低いという差異がある。(1)の無秩序な自発的膜挿入に関しては、大腸菌の細胞質膜についてはジアシルグリセロールがリン脂質のわずか1~3%で完全に抑制できることが判明している。これは、大腸菌におけるジアシルグリセロール発現レベルに対応している。一方、コレステロールにも同様の抑制作用があることも判明した。コンピュータ・シミュレーションにより、膜内でのコレステロールとジアシルグリセロールのそれぞれの存在位置を調べたところ、どちらもリン脂質の親水的な頭部近傍の二重層内部の間隙に存在することが判明した。両者は構造的に大きな違いがあるにもかかわらず、膜内での局在位置は極めて類似していた。膜タンパク質の自発的膜挿入は、リン脂質の親水的な頭部近傍の二重層内のスペースが疎水的な物質を吸引してより安定な状態に近づこうとして進行すること、これらの脂質がこのスペースに埋め込まれることにより自発的膜挿入が抑制されることが明らかになった。(2)に関しては、平成29年度までに高濃度MgやPEG等の化学物質がリポソーム凝集に及ぼす効果を定量的に評価する系を構築した。また、大腸菌内膜由来の抽出物をリポソームに再構成すると、高濃度MgやPEGに対する耐性度が大幅に上昇することが明らかとなり、生体膜に機械的強度、化学物質に対する耐性度を付与する因子の可溶化・再構成のシステム構築も完了した。続いてこの因子の精製を進めたところ、目的因子は、分子量が1kDa~3kDaで、負電荷をもつ両親媒性の化合物であることが判明した。因子の生成はほぼ完了したため、今後は因子の構造を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
コレステロールによる自発的膜挿入の抑制については、ジアシルグリセロールによる抑制と同様の機構で進むことを論文として報告し、さらにコンピューター・シミュレーションにより自発的膜挿入抑制の分子機構を明らかにし、論文報告することができた。膜に強度を与える因子の生成については、機能評価システムの構築、因子の抽出条件と再構成条件も決定が終了し、構造解析に進む段階に達した。最終年度に向けて予定通り構造解析が実施できる状況であるため「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
(1)自発的タンパク質膜挿入の抑制については、予定していた研究が終了したため、今後は(2)の機械的強度、化学物質に対する耐性度を付与する因子の構造解析に集中する。十分な高純度精製標品を調製し、構造決定を進める。
(1))の無秩序な自発的膜挿入の抑制機構の解析について、予定より早く終了したため、物品費分に余剰が生じた。最終年度に、(2)の機械的強度、化学物質に対する耐性度を付与する因子の構造解析を加速させるために使用する。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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