研究課題/領域番号 |
15KT0074
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
和田 洋 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60303806)
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研究分担者 |
矢田 哲士 九州工業大学, 情報工学研究科, 教授 (10322728)
市瀬 夏洋 京都大学, 情報学研究科, 助教 (70302750)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 転写制御ネットワーク / 棘皮動物 / ウニ / 新規細胞タイプ |
研究実績の概要 |
生物の示す特性である、変動する環境に対する頑健性、柔軟性は、転写制御ネットワークの性質として理解できる部分がある。本研究は、このような転写制御ネットワークの性質について、実験系と理論系の研究者が共同して解き明かそうと以下の課題に取り組んできた。 まず、同一の遺伝子発現パターンに対して複数のネットワークが推定可能であることは、生物では実現されていないかもしれないが、理論的には同じ機能を有する多数のネットワークが潜在し、多様性を有していることを示唆する。そこで多様性を取得可能なネットワーク推定技術を開発し、ウニの中胚葉細胞分化の転写制御ネットワークで、可変な部分を抽出した。さらに、2種のウニのゲノム情報を比較し、転写制御ネットワークの遺伝子のシス領域が、どの程度保存され、転写因子結合配列がどの程度変化しているかを付き合わせることで、理論的に予想されるネットワークの可変が比較ゲノムの結果と整合的かどうかを検討している。そのための、比較ゲノムのデータベース作りを現在進行している。 また、棘皮動物の幼生骨片細胞をモデルとして転写制御ネットワークの相転移として新規細胞タイプの新生を理解するために、ヒトデの成体骨片形成の転写制御ネットワーク推定にひ必要なデータを蓄積している。これまでに、ヒトデの成体骨片形成期に発現する120程度の転写因子をスクリーニングして、このうち30程度が骨片形成細胞で発現していることを明らかにした。現在これらについて、詳細な時間的な発現プロファイルを取得しており、このデータをもとに転写制御ネットワークの推定を行う。これまでにスクリーニングした遺伝子にはウニの幼生骨片形成には関わっていない遺伝子も含まれており、逆にウニの骨片形成に関与するものにもヒトデの成体骨片では発現していないものも見つかっており、転写制御ネットワークの柔軟性を示唆するデータが得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写制御ネットワークの推定技術が研究分担者の努力により格段に進んだ。比較ゲノムデータと付き合わせていくことで、転写制御ネットワークの種間比較と理論的な予測との整合性を検討する段階まで進めることができた。また、研究員を雇用できたことで、ヒトデにおける遺伝子発現のスクリーニングも当初計画していたよりも早く進めることができた。 転写制御ネットワークを推定していく過程で、転写制御ネットワークの理論的な研究では、入力と出力の頻度分布が異なる場合に、ネットワークがより安定になるという予測を着想した。この予測が、脊椎動物の既知の比較ゲノムデータから支持されるかについて、新たに解析を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
転写制御ネットワークの理論的な研究で予測された入力と出力の頻度分布について、実データによる検証を進めていく。 また、転写制御ネットワークに種間差を検出する研究については、2種のウニ間での比較ゲノムデータベースを構築していき、転写因子結合配列の進化的消長を網羅的に解析していく。その結果を理論的な予測と突き合わせることで進めていく。 ヒトデの転写制御ネットワークの推定については、骨片形成期に発現する転写因子の残り80程度のスクリーニングを行い、時間的な発現プロファイルも取得する。この情報をもとに転写制御ネットワークの推定を行い、ウニの幼生骨片形成の転写制御ネットワークとの比較を行う。また、ヒトデの骨片を形成しない幼生中胚葉の転写制御ネットワークの予想を行うために必要な遺伝子発現プロファイルの情報も取得する。これまでのトランスクリプトーム解析から、胞胚期または原腸胚期に発現する転写因子として233を同定している。これらについて、時空間的な発現データを取得し、転写制御ネットワークの推定を行う。ヒトデの幼生中胚葉の転写制御ネットワーク、成体骨片の転写制御ネットワーク、この二つのネットワークが進化の過程で、融合した結果がウニの幼生骨片形成の転写制御ネットワークになったと推定される。構成的なネットワークの推定から転写制御ネットワークの融合による新規細胞タイプの生成というプロセスがどのように実現されるか、実証していく。
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