研究課題
本研究課題では、ストレス環境に対する細胞の耐性獲得において、遺伝子発現量の「ゆらぎ」「原始的遺伝性」が果たす役割を明らかにすることを目指している。特に、数世代程度の時間スケールで起こる耐性獲得現象である「パーシスタンス現象」、および 数十~数百世代の時間スケールで起こる遺伝型変化を伴う耐性細胞の産出過程に着目し、これら短長期的な適応現象と遺伝子発現量ゆらぎの関係を明らかにする研究を行う。そのために以下の具体的研究項目を計画した。(1) 薬剤耐性遺伝子など、薬剤投与下において生存と強く相関することが期待される因子の、発現ゆらぎ条件が異なる大腸菌細胞株ライブラリを構築する。(2) 構築した細胞株の1細胞タイムラプス計測を効率よく行える、新たなマイクロ流体デバイスを作製する。(3) 構築した細胞株、およびマイクロ流体デバイスを用いて、生存関連因子の発現量ゆらぎの統計的性質とパーシスタンス効率の一般的関係を明らかにする。(4) バッチ培養系、長期1細胞計測系を用いて、ストレス環境下での進化実験をおこない、パーシスタンス効率と遺伝型変化を伴う耐性細胞の出現頻度の関係を明らかにする。今年度の研究では、主に(1)の課題に取り組んだ。抗生物質ストレプトマイシンおよびクロラムフェニコールに対する耐性遺伝子を用いて、この発現量ゆらぎ条件を変えた大腸菌細胞株ライブラリの構築に成功した。特に、PLlacO-1プロモーターの下流に耐性遺伝子を配置するとともに、誘導物質のトランスポーターとして機能するLacYの遺伝子を欠損させた株を用いることで、プロモーターのON/OFFのデジタル的応答をアナログ的応答に変化させられることを明らかにした。これにより、発現量分布が双峰性になることなく、単峰性のまま平均発現量を変化させることが可能となった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では平成27年度に上記「研究実績の概要」で述べた計画(1)を遂行する予定であった。これを予定通り完了しただけでなく、(2)(3)の研究にも既に着手している。具体的には新たなマイクロ流体デバイスのプロトタイプを作製している。また、このデバイスを用いた計測により発現量の「原始的遺伝性」の差により、薬剤投与下でのパーシスタンス効率が変化することを示すデータも取得できつつある。したがって、当初の予定よりも早いペースで研究が進展していると判断できる。
今年度は、上記「研究実績の概要」で述べた計画(2)を中心に研究を進める。既に作製したマイクロ流体デバイスのプロトタイプを利用し、複数の大腸菌細胞株を同時に1つのデバイス内でタイムラプス計測する。計測結果をもとにデバイスの性能、計測プロトコルを評価し、必要に応じてシステムの改良を行う。最終的に、大腸菌の薬剤応答を1細胞レベルで効率的に計測できるデバイスを完成させる。また、この手法を発展させて、薬剤応答下での集団のKilling curveをハイスループットで取得できる計測デバイスを作る。集団全体として細胞数が増加する条件下では、プレートリーダーなどを用いてハイスループットに薬剤応答を計測できるシステムが存在するが、細胞数が減少する条件下でのハイスループット計測はこれまで実現していない。これを完成させ、本プロジェクトで作製した大腸菌細胞株の薬剤応答の性質を効率的に同定する。
当初の予定よりも大腸菌細胞株の構築がスムーズに進み、そこで必要な分子生物学用試薬、プラスチック器具等の消耗品などの費用が抑えられたため。また、国内出張等を全て招待講演、都内近郊での研究会に限ったので、旅費を抑えることができたため。
本プロジェクトに関わる研究補助者への謝金、研究用試薬やプラスチック器具、ガラス器具などの消耗品の費用として主に使用する予定。本研究課題で得られた成果を学会等で発表するための出張旅費の支出も計画している。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 113 ページ: 3251-3256
10.1073/pnas.1519412113
Current Biology
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顕微鏡
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