研究課題/領域番号 |
15KT0075
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
若本 祐一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30517884)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 遺伝子発現ゆらぎ / パーシスタンス / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ストレス環境に対する細胞の耐性獲得において、遺伝子発現量の「ゆらぎ」「原始的遺伝性」が果たす役割を明らかにすることを目的としている。特に、数世代程度の時間スケールで起こる耐性獲得現象である「パーシスタンス現象」、および数十~数百世代の時間スケールで起こる遺伝型変化を伴う耐性細胞の産出過程に着目し、これら短長期的な適応現象と遺伝子発現量ゆらぎの関係を明らかにする研究を行う。 今年度の研究ではまず、ひとつのクローン細胞集団内で観察される、時間的に変動する遺伝子発現量のゆらぎに対して、異なる発現量状態によって適応度がどのように変化するかという情報(適応度地形)と、そのような発現量の差が集団内で起こる選択とどの程度強く相関しているかを評価する定量的指標(選択強度)を与える一般的な解析手法を開発し、これを論文として報告した(Nozoe, et al., PLoS Genetics, 2017)。この手法を用いれば、1細胞タイムラプス計測などによって細胞系統樹、およびその各細胞系列上での発現量推移の時系列データを得ることができれば、細胞の増殖や遺伝子発現に関して特段のモデルを仮定することなく、適応度地形と選択強度を得ることができる。また、同様の手法を大腸菌の抗生物質に対する長期適応過程の解析に適用し、耐性遺伝子の発現量差が、薬剤投与直後では細胞の適応度差を生むが、投与後しばらくして順応が進むにつれて、その発現量差が意味を持たなくなることを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究によって、薬剤投与直後には耐性遺伝子発現のゆらぎが、個々の細胞の生死運命の決定に重要な役割を果たすが、長期的な順応では、それが意味をもたなくなるという、当初の実験計画の段階では、予想していなかった興味深い結果を得ることができた。さらにこの結果によって、耐性遺伝子の発現を取り巻く他の遺伝子群の発現ダイナミクスを計測する必要があることを明確に理解することができ、今後の研究計画をより具体化できた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 短期的な適応応答に対する遺伝子発現量ゆらぎの原始的遺伝性の影響評価 薬剤耐性タンパク質に蛍光タンパク質を結合させ、プロテアーゼによって認識される各種分解タグを賦与した融合タンパク質を発現する大腸菌株ライブラリを利用して、抗生物質に対するパーシスタンス応答と、発現ゆらぎの時間スケールの関係を明らかにする。ゆらぎの時間スケールが遅い状況では、ある時点での発現量状態が子孫細胞に遺伝し、適応応答が効率的に生じることが予想される。この予想を、これまでに構築した、アレイ状にマイクロチャンバーを配置した1細胞計測デバイスを利用して実験検証する。 (2) 長期薬剤投与下で見られる順応を実現する細胞内機構の探索 これまでの実験で観察された、長期薬剤投与下での順応応答を実現する、耐性遺伝子以外の細胞内要因を探索する。候補としては、Multi-drug resistanceに関わることが知られるEfflux pump、および、globalな発現状態のCoordinatorであると考えられているDamメチラーゼなどの役割を調べる。これらが、短期的なパーシスタンス応答から長期的な順応へと至る過程でどのように変化するか、1細胞の時系列計測を行うことで明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学での共用設備、共用機器が利用できることになり、当初予定していた物品費を節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題を進めるため、新たに研究員を本研究費にて雇用し、その人件費に充てる予定。
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