研究課題/領域番号 |
15KT0079
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡邉 正勝 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (90323807)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 反応拡散 / 細胞仮足 / Cytonemes / 細胞間相互作用 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
本研究は、生物の形態形成における細胞仮足の役割を明らかにすることを目的としている。 生物に見られるパターン形成ではモルフォゲン濃度勾配原理と反応拡散原理が知られている。いずれの原理でも生体内での物質の拡散を想定しているが、安定した拡散を維持することは困難であると考えられてきた。最近、細胞仮足がモルフォゲン分子を直接的に近位の細胞に受け渡していること、細胞仮足の分布が拡散を模倣することにより拡散と同じ役割を果たしていることが分かってきた。本研究では、ゼブラフィッシュの体表模様(ストライプ模様)形成を対象にし、反応拡散モデルに基づく形態形成(パターン形成)における細胞仮足の機能解明を目指している。 H27年度はまず、細胞仮足の形態観察を行った。細胞膜移行型のEGFPを発現させた黒色素細胞の継時観察を行い、細胞仮足の伸長とパターン形成における時期を、野生型及び模様変異体で比較した。その結果、細胞仮足は受精後2~3週のパターン形成過程での伸長が観察された。また、その伸長には、皮膚上での配置依存的ではあるが3-7日程度要することが分かった。この仮足とパターン安定化に関わる因子候補としてNotch-Deltaについて解析を行ったが、Notch1a、DeltaC、Her6、Her9などの単独での過剰発現及びCRISPRを用いたノックアウトでは効果は現れなかった。これと平衡して、細胞間相互作用に関わる因子のスクリーニングを目指して色素細胞ごとのトランスクリプトーム解析を行った。黒色素胞、黄色素胞それぞれで発現する膜蛋白について順次選択し、過剰発現系統、ノックアウト系統の作製を進めている。特に神経軸索ガイダンス因子のノックアウト個体ではパターンの変化が見られており、現在詳細な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒色素細胞のもつ細胞仮足の動態の観察を行ったところ、1)パターン形成初期には細胞仮足は比較的ランダムに仮足を伸ばすこと、2)黄色素細胞との接触により細胞仮足が安定化すること、3)仮足の伸長には周辺環境が重要であることがわかってきた。細胞仮足の身長については、これまで得られている模様変異体の黒色素細胞についても継時的な解析を行ったが、黒色素細胞と黄色素細胞との距離の近いjaguar変異体以外では野生型と同様の様態を示した。 この仮足により形態形成に関わる因子としてNotch-Deltaを想定していたが、Notch1a、DeltaCの遺伝子破壊では表現型は得られなかった。Notch2に関しては現段階では遺伝子破壊系統が得られていないが、海外のグループの研究によりNotch2がパターン変異体において重要な機能を持つことが明らかにされ、一部方向転換を迫られた。このため、Notch-Delta以外の因子の単離を目指して、スクリーニングの目的でトランスクリプトーム解析を行い、黒色素細胞あるいは黄色素細胞特異的に発現する膜蛋白質、分泌蛋白質のリストを作成した。このリストを元に、順次遺伝子破壊系統の作成を進めている。現在のところ、F0世代では、軸索ガイダンスに関与することが分かっている膜蛋白質について2つの因子が体表模様形成に関与している可能性が示されている。Notch-Deltaあるいはこれまでに単離されてきた細胞間相互作用因子であるCx41.8, Cx39.4, Kir7.1, Tspan3c, Igsf11などとの関係についても明らかにしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、遺伝子破壊系統、遺伝子高発現系統の作製から、細胞仮足を介して細胞間相互作用を行う因子の単離を進める。これまで体表模様に関与することが示唆された、軸索ガイダンスに関わる因子に関しては、GFPなどのレポーター蛋白質を付加させた形で色素細胞内での発現を行い、細胞仮足での局在の確認を行う。昨年度本予算で購入した蛍光顕微鏡を使用して、in vivoにおいての細部仮足の動態観察を詳細に行う。現時点では顕微鏡下での観察は4時間程度が限度なので、より長く観察できる条件の検討を行う。In vivoでの確認が難しい場合は、これまでに確立しているin vitro培養系にマイクロ加工ディッシュを用いることにより人工的に細胞仮足を伸長させ、この状態での目的蛋白質の解析を行う。また、これら因子が色素細胞間の活性化作用に関わるのか、あるいは反発作用に関わるかについても解析を行う。さらに、より詳細な解析のため、これらの因子を背ふぁロースビーズ上に結合させた人工物に対し、ゼブラフィッシュの体表上で見られるような反発作用あるいは活性化作用を示すかどうかについての検証を行う予定である。 仮足自体の必要性について、現在のところゼブラフィッシュ色素細胞においては、任意の条件で細胞仮足の伸長、収縮を操作することができておらず現在の課題となっている。この点について、細胞骨格に重要な蛋白質の操作をすることにより、パターン形成における細胞仮足の重要性の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算は研究に必要な物品の購入に当てられており、繰越額の2628円は誤差である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は消耗品費に当てる。
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