生命システムを内包した人工細胞を用い、「生命機能と形状・流動性の関係」と「細胞サイズ閉鎖空間の形状と流動性の関係」の解明を通し、細胞内における生命の秩序原理を明らかにすることを目的とした。 i) 昨年度Soft matter誌に報告した流動性が細胞形状の変形パターンの運命を変化させるという研究内容を発展させ、ゲル化と相分離の時間発展に伴い座屈が、細胞の内部構造に強く由来して変化する現象を見出し、Langmuir誌に報告した。この成果は雑誌内カバーとして取り上げられた。 ii) 流動性が生命機能に与える影響について解析を行うために、昨年度までに確立したFCSを用いた人工細胞内拡散速度の測定系をさらに高度化し、細胞膜からの距離や細胞形状と拡散の相関関係まで解析可能とした。しかし、生命機能を担う要素群を人工細胞内に投入した系では、明確に拡散速度を変化させる要素の同定には至らなかった。この理由は本研究で想定していた探索空間が小さいことに由来する可能性と、その他の物理的な要因により生じている可能性があった。そこで人工細胞形状を変更させた系での測定を行ったところ、細胞のように高分子混雑した人工細胞内では、その分子拡散が細胞形状によって変化することを示唆するデータを得た。 iii) 細胞サイズ閉鎖空間の形状と流動性に関しては、人工細胞が接触した系にチャネルタンパク質が介在した場合に特殊な拡散速度変化が見出されることを発見した。また、細胞サイズ閉鎖空間特異的な機能の創発として、大きな膜表面積・体積比ゆえに、細胞膜との相互作用が弱いタンパク質の膜局在が強化される現象と、競合的な要素によるその解除を発見した。この効果は細胞サイズ空間で反応と拡散がカップリングして生じるタンパク質の波(Min波)の創発において非常に重要であることを示すに至った。
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