研究課題/領域番号 |
15KT0085
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
古澤 力 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, チームリーダー (00372631)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 環境適応ネットワーク / 大腸菌 / 進化実験 |
研究実績の概要 |
生物システムは動的に変化する環境条件に対し、柔軟にその内部状態を変化させることによって適応をする能力を持つ。近年の分子生物学の発展は、その適応に関与する多くの要素を同定した一方で、こうした複数の構成要素からなる環境適応ネットワークが、進化の過程によってどのように出現したかについては、不明な点が多く残されている。そこで本研究では、多数の異なる環境下での大腸菌進化実験を行い、その進化ダイナミクスをトランスクリプトーム解析やゲノム変異解析によって定量する。そうした定量データに基づき、細胞モデルの進化シミュレーションを援用しつつ、環境適応ネットワークの進化ダイナミクスが持つ一般的な性質を明らかにする。 平成28年度は、96種類の異なるストレス(酸・アルカリ・重金属・抗生物質など)を付与した環境下での大腸菌の進化実験系を実施した。それぞれのストレス環境下において、6つの独立系列で30日程度の植え継ぎ培養による進化実験を行い、87種種類の環境においてストレス耐性能(最小阻害濃度)の有意な上昇を観測した。これらの耐性株について、ゲノム変異解析のためのサンプル取得と、トランスクリプトーム解析のための実験系の構築が完了しており、29年度に定量データの取得を行う。また並行して、単純化した細胞モデルの計算機シミュレーションと理論解析により、表現型進化が少数次元のダイナミクスによって拘束される現象を見出した。この結果は、大腸菌の進化実験の結果においても、トランスクリプトーム空間において可能な表現型の変化が少数次元の空間に拘束されていることを示唆している。今後、この予測を定量的に評価し、環境適応と進化のダイナミクスと、それをもたらすネットワークが持つ一般的な性質を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多数のストレス環境下での進化実験を実施し、耐性株の取得に成功をしている。今後は、これら耐性株の表現型と遺伝子型の変化を解析することにより、環境適応・進化のダイナミクスが持つ一般的な性質を解析することが可能になる。また、細胞モデルの計算機シミュレーションと理論解析の結果においても、表現型進化が少数次元のダイナミクスに拘束され得ることを示すことに成功した。この結果と実験データ解析を統合し、環境適応と進化における一般的性質を明らかにするため基盤構築が出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
上述の多数のストレス環境や、時間的に変動する環境下での進化実験を行い、耐性株を取得する。トランスクリプトーム解析とゲノム変異解析を用い、その進化ダイナミクスを特徴づける表現型と遺伝子型の変化を抽出する。また、細胞モデルを用いた変動する環境下での進化シミュレーションを行い、そこで出現する反応ネットワークが持つ一般的な性質を抽出する。これら実験研究と理論研究を統合し、環境適応ネットワークが出現するメカニズムの理解を試みる。
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