研究実績の概要 |
本研究は、上皮成長因子受容体 (EGFR) による細胞膜情報処理システムの再構成系を開発し、情報伝達と分岐の分子機構を解明することを目的とした。EGFRの分子数と密度を制御してナノメートルサイズの微小平面膜に再構成し、細胞内外の情報伝達、情報処理反応場の構築、動的な情報分岐・処理能力の創発に関する構成的システム研究を行った。生体膜における複雑に絡み合った反応の実体を捉えて、リポソームなど再構成膜系を利用した構成的システム研究へ基盤情報を与えるとともに、分子ダイナミクスを利用した高機能素子開発のヒントを得ることを目指した。 再構成系は直径10~15 nmの微小平面膜であるナノディスクを基盤とし、3種の再構成系の作成に成功した。すなわち精製した全長EGFRとMSP蛋白質、脂質による全長ナノディスク。人工合成したEGFRの膜貫通領域-細胞質側膜近傍領域を含むTM-JMナノディスク。SMAにより細胞膜から直接切り出した全長受容体を含むSMAナノディスクである。これらの再構成系による実験から、EGF受容体の2量体化が酸性脂質PS, PIP2と膜近傍領域の相互作用によって誘起されること。膜近傍領域T654のリン酸化は酸性脂質との相互作用を介して2量体形成を阻害すること。膜のコレステロールは2量体化を促進するが、形成される2量体構造はコレステロールを含まない膜でできる2量体とは異なっている可能性、などが示唆された。これらの現象の構造的基盤を明らかにするため、共同研究によりMDシミュレーションを行い、構造変化に重要と考えられるPIP2と膜近傍領域のアルギニン残基との相互作用を推定した。受容体の変異体による細胞生物学実験は推定結果を支持している。
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