研究課題/領域番号 |
15KT0088
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲城 玲子 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (50232509)
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研究分担者 |
川上 貴久 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10722093)
南学 正臣 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90311620)
田中 哲洋 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90508079)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス / microRNA / 腎臓老化 / 尿細管上皮細胞 / エピゲノム / microRNA 205 / 酸化ストレス / 低酸素 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、エピゲノム(特にmicroRNA)と慢性腎臓病、特に尿細管間質障害に焦点を絞り、その関連性を明らかにし、新たな視点から腎臓病の病態生理学を理解するための研究として、ヒト尿細管上皮細胞に発現するmicroRNAのプロファイル、さらに病的刺激(酸化ストレスや小胞体ストレス)によって有意に発現変動するmicroRNA群の同定などを報告してきた。 本研究では、そうした一連の成果を基盤として、腎臓老化に伴って発現が変動する老化関連microRNAの同定、それらが腎臓老化、特に尿細管の老化表現型(尿細管上皮細胞死、尿細管上皮細胞の老化マーカー発現、尿細管上皮細胞障害修復能など)に及ぼす影響などを検討した。その結果、ヒト尿細管上皮細胞株(HK-2)のmicroRNA発現プロファイルから、虚血による酸化ストレス(低酸素・再酸素化)や小胞体ストレス(tunicamycin, tapsigargin処理)によって発現が変動するmicroRNAを同定、更にその中から加齢(12月齢以上)によって変動するmicroRNA群を抽出した。そのmicroRNA群のひとつとしてmicroRNA 205 (miR-205)が同定された。これまでに我々は、miR-205が尿細管恒常性維持に必要なmicroRNAであることを報告しており、1) miR-205は尿細管上皮細胞のストレスに対する適応応答を適切に制御、2)その標的遺伝子としてPHD1 (prolyl hydroxylase 1) の遺伝子発現制御を司る、3)miR-205の発現低下はPHD1発現亢進を介して細胞内ROS上昇と尿細管上皮細胞死を招くことなどを明らかにしてきた。腎皮質の尿細管は、加齢によって尿細管拡張と尿細管上皮細胞の扁平化など老化に伴う病理所見を呈するが、それに伴ってmiR-205発現が有意に低下することが示された(p<0.05)。加齢腎臓は酸化ストレスや小胞体ストレスが亢進しており、miR-205発現低下が加齢腎臓におけるストレス適応応答能の低下と関連していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、尿細管上皮細胞の加齢に関連するmicroRNA群を同定することが出来、さらに加齢腎臓の病理的表現型や機能変化と関連するmicroRNAとしてmiR-205を同定することが出来た。その成果は国際誌の英文論文掲載や国際学会などの招待講演にて国内外に発表してきた。 しかし、他の老化関連microRNAに関しては標的遺伝子群の同定、及びその病態生理学的活性の意義に関して十分に絞り込めていない。さらにそれらの解析を精力的に進めると共に、糸球体構成細胞の老化やヒストン修飾酵素などによるエピゲノム変化に関する研究にも着手していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年の成果や手法の基づき、以下の解析を行う。 1)引き続き、他の老化関連microRNAに関しても標的遺伝子群の同定、及びその病態生理学的活性の意義に関して、miR-205と同様の解析を進める。 2)miR-205に関してin vitroの解析に加え、in vivo解析も進め、miR-205の病態生理学的活性の老化における意義を詳細に明らかにする。 2)上記の解析と同時に、老化と関連のあるエピゲノムの解析として、ヒストン修飾に関連する酵素群の尿細管間質障害や腎臓老化に及ぼす影響に関しても追加解析する。 これらの解析を通して、糸球体構成細胞の老化やmicroRNA/ヒストン修飾によるエピゲノム変化に関する包括的な成果が得られるように努める。
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