研究課題/領域番号 |
15KT0088
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲城 玲子 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (50232509)
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研究分担者 |
川上 貴久 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10722093)
南学 正臣 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90311620)
田中 哲洋 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (90508079)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 腎臓老化 / 近位尿細管上皮細胞 / 尿毒素 / D-アミノ酸 / D-セリン / アポトーシス / 細胞周期停止 / SASP |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)は腎臓早期老化モデルといわれ、腎臓老化と類似の表現型、つまり腎機能低下や尿細管・間質の線維化を呈する。一方で腎臓老化に伴って生体内に蓄積してくる尿毒素がCKDの加速要因、さらに臓器連関破綻の原因となることが分かってきた。特に近年、新たな尿毒素としてD-アミノ酸の生体内での病態生理学的意義が注目されている。そこで本年度我々は、CKDの尿細管障害、特に尿細管間質線維化に関連すると思われるD-アミノ酸の探索、及びそれらの腎臓老化に対する影響の検討を試みた。その結果、1)2型糖尿病を伴う進行性腎障害(CKD)動物の血漿のメタボローム解析にて、腎障害に伴って血中に蓄積してくるD-アミノ酸の一つとして、D-セリンを同定、2)ヒト近位尿細管上皮細胞培養株やその初代培養細胞にD-セリン(10-20mM)を負荷(48hr)すると、細胞増殖障害が生じること、3)その現象がL-セリンや他のD-アミノ酸であるD-プロリン・D-アラニンでは認められないことなどを明らかにした。そこでD-セリンによる尿細管上皮細胞増殖抑制の機序を検討したところ、D-セリンによってミトコンドリア依存性のアポトーシスシグナル(bax、bcl-2の発現変動)が惹起され、尿細管細胞死が惹起されることが明らかとなった。さらに興味深いことに、D-セリンは尿細管細胞においてp16とp21の発現を上昇させ、細胞周期停止(G2/M期停止)、及び細胞老化(γH2AX陽性、SA-βGal陽性)を誘導することも明らかにした。またD-セリンによる尿細管細胞老化は、IL-6とIL-8の発現上昇を伴っており、Senescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)を呈すことから、周囲の尿細管・間質への炎症波及に繋がる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで本研究において、尿細管上皮細胞の加齢に関連するmicroRNA群を同定することが出来、さらに加齢腎臓の病理的表現型や機能変化と関連するmicroRNAとしてmiR-205を同定することが出来た。その成果は国際誌の英文論文掲載や国際学会などの招待講演にて国内外に発表してきた。 また本年度は、新たな腎臓老化(特に尿細管細胞老化)に関与する尿毒素として、D-アミノ酸の病態生理学的意義の一端を明らかにすることが出来たので、今後、その経路におけるストレスシグナルとしてUPR経路の関与、及びそのエピゲノム制御の可能性についても研究を発展させることが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
新たな腎臓老化(特に尿細管細胞老化)に関与する尿毒素として、D-アミノ酸のひとつ、D-セリンの病態生理学的意義の一端を明らかにすることが出来たので、今後、その経路におけるストレスシグナルとしてUPR経路の関与、及びそのエピゲノム制御の可能性を検討する。
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