研究課題/領域番号 |
15KT0093
|
研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
山下 東子 大東文化大学, 経済学部, 教授 (50275822)
|
研究分担者 |
工藤 貴史 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (00293093)
|
研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
|
キーワード | 高齢漁業者 / 自営漁業 / 漁業継続 / 法人化 |
研究実績の概要 |
本研究は、高齢者漁業を前提とした社会基盤の再構築方法を探求することにある。本研究を通じて、高齢になるのを機に引退してしまった漁業者の引退年齢、引退動機、引退後の生計の状況を把握し、やる気も体力も残っているのに辞めざるを得ない高齢漁業者がなお漁業を継続するためにはどの様な社会基盤が必要かを検討すること、複数の漁業者が合同で漁業を行う形態として協業化・法人化があるが、法人は高齢漁業者が引退した後も漁業の担い手として存在しうるため、そのような「浜の会社」が高齢者を多数抱えた沿岸漁村の社会基盤になりうるのかを検証することを目的としている。 これらの課題を探求するため、本年度は千葉県銚子、勝浦、富浦、富津、船橋において高齢漁業者・引退漁業者へのヒヤリング調査、漁業センサスを用いた文献調査、岡山県瀬戸市牛窓町において高齢漁業者の新規参入実態の調査、長崎県において高齢者の受け入れに積極的な自治体における中高年を対象とした新規就業者への漁船リース事業の実態調査を行った。その結果、高齢漁業者の引退動機は疾病のほかは、家族の強い反対によるものであること、2013年漁業センサスから漁業後継者のいない高齢かつ単世代で構成される高齢単世代漁家の増加実態と主とする漁業種類別の状況について明らかになった。また他職の定年後に就業するケースでは1本釣りに着業し、少量ながら水揚げをしている実態があり、一本釣り漁業者に占めるそうした漁業者の割合が2割程度にのぼること、高齢者の移住受け入れに積極的な長崎県の島嶼部では、県が中高年を対象とした漁船リース事業に取り組んでおり、先住の高齢者が新規参入者の指導を行い報酬を得ているケースもあることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は次の3つの課題について調査・研究を行った。①すでに引退した漁業者の引退年齢、引退動機、引退後の生計の状況を把握する、②辞めざるを得ない高齢漁業者を引き止める社会基盤の抽出、③社会基盤としての「浜の会社」の活用事例の検討を行う。 上記①については千葉県銚子、勝浦、富浦、富津、船橋において、高齢漁業者・引退漁業者のヒヤリングを行った(山下)。ヒヤリング対象者は疾病の他は、家族(夫人や子供など)の強い反対によって引退を決めている。文献調査では、2013年漁業センサスを資料として高齢漁業者の就業実態・存在形態・生産実態について分析し、漁業後継者のいない高齢かつ単世代で構成される漁家(以下、高齢単世代漁家とする)の増加と主とする漁業種類別の状況について明らかにした(工藤)。 上記②については岡山県における高齢漁業者の新規参入実態についての実態調査を実施した(工藤)。他職の定年後に漁業に就業するケースが見られる岡山県瀬戸内市牛窓町漁協地区を調査し、1本釣り漁業者のなかには定年後に趣味と実益を兼ねて漁業を始めたものが2割程度存在し、また組合員ではないがボートを所有して少量ながらも漁協に漁獲物を水揚げしている高齢者も存在する。地区における1本釣りの水揚げ金額は大きいものではないが、これらの高齢漁業者が存在することで釣りものの水産物が市場に供給されており、その意義は小さくない。 上記③については長崎県における新規就業者対策の実態調査を行った(工藤)。県では2015年度から中高年を対象とした漁船リース事業に取り組んでおり、高齢者の移住受け入れに積極的な島嶼部では本事業を活用して漁業への新規就業を促進する動きが見られること、また、本事業では新規就業者を指導する指導者に対しても報酬が支払われることになっており、指導者としての高齢漁業者の役割にも期待が大きいことが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度においても、「11.現在までの進捗状況」に記載した3つの課題に沿って研究を進める。①については、平成27年度に青森県においても同様の調査をする予定であったが、平成28年度に持ち越した(山下)。②については、岡山県島嶼部(頭島)でのカキ水揚げの機械化の視察を行う(山下・別経費で実施済み)。しかし実働は高齢者ではなく外国人技能実習生が担っていた。③については沖縄県本部町のマグロ養殖を対象にして、現地調査により養殖企業による地元高齢者の雇用状況と雇用促進の課題について明らかにする(工藤)。また、学会等の場を利用して研究発表を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は2点ある。第1は、千葉県での調査で予定経費を節約できたことである。宿泊を伴う予定であったが、日帰り調査で済んだこと、最寄駅からの往復にタクシーを使用する予定であったが、漁業協同組合、県水産事務所等が送迎を申し出てくれたことによる。第2は、平成27年度に、すでに引退した漁業者の引退年齢、引退動機、引退後の生計の状況を把握するという課題のために青森県で調査をする予定であったが、日程調整がつかなかったため、平成28年度に持ち越したためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
青森調査は平成28年度に実施する。千葉県調査で節約できた使用額は、他の地域での研究活動のための旅費・経費に充てる予定である。
|