本研究は、高齢者漁業を前提とした社会基盤の再構築方法を探求することにある。研究を通じて、高齢になるのを機に引退してしまった漁業者の引退年齢、引退動機、引退後の生計の状況を把握し、高齢漁業者がなお漁業を継続するためにはどの様な社会基盤が必要かを検討した。 最終年度である本年度は、現地調査、学会報告および学会でのシンポジウム開催を行った。現地調査については、工藤が三重県志摩市志島地区および尾鷲市早田地区において新規就業者対策における高齢漁業者の役割について現地調査を実施した。その結果、1.このままでは漁業者が皆無となる臨界点に達した時に地区外からの新規就業者を確保することを高齢漁業者が決意したこと、2.地区外からの新規就業者を確保するにあたってこれまでの地域漁業のルール・慣行を高齢漁業者が改革したこと、3.技術継承に加えて住宅確保、集落活動への参加等の生活面において高齢漁業者が新規就業者を総合的に支援していることが明らかになった。また山下は北海道釧路地区における沖合漁業(いわしまき網)の操業・水揚げ・加工選別における高齢者の就業実態を視察した。 3年間の研究期間を通じた研究成果の報告として、2つの学会報告および1つの学会シンポジウム開催を行った。シンポジウムについては、平成29年10月28日に大東文化大学において開催された地域漁業学会第59回大会において、一般報告枠の「ミニ・シンポジウム」として『高齢漁業者を生かした地域づくり・浜づくり』と題して開催した。山下・工藤のほか、韓国大邱慶北研究院の金智薫氏より「韓国における漁業者高齢化の現状と対策」、(一財)漁港漁場漁村総合研究所の後藤卓治氏より「高齢漁業者も利用しやすい漁港づくりについて」発表した。山下・工藤による本シンポジウム報告とともに学会誌に掲載された。その他の研究成果発表につては本報告書7.に掲載したとおりである。
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