研究課題/領域番号 |
15KT0103
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 雄史 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (50615622)
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研究分担者 |
児玉 大樹 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特任准教授 (40466826)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 分子動力学 / タンパク質 / エントロピー / 計算幾何 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、分子ダイナミクスを特徴付け、定量化し、比較分類研究を可能にするような数学的基盤の構築である。 前年度までに、skeletal coreの概念を導き、新しいタンパク質座標系を構築する方法を開発した。これによって、タンパク質の部分的な大振幅揺らぎによって生じるリガンドの見かけの運動を最小限に抑えることができるようになった。 本年度においては、運動の特徴付けとして、エントロピーの新しい評価方法を考案した。前半においては、理論的定式化を完成させることができた。この方法は、以前より取り組んでいるdirectional analysisを基盤にしている。したがって、この方法は角座標の応用に限定されるが、カーテシアン系の調和振動子近似から外れる運動をより高精度に表現できると考えられる。(例えば、Directional analysisにおける分散は、角度座標の揺らぎの大きさを表している。) 後半においては、本手法をタンパク質のアミノ酸側鎖の運動に適用を試みた。タンパク質の分子動力学シミュレーションを実行し、従来法(カーテシアン系で記述されるRMSF解析)と比較した。その結果、新しい手法と従来法それぞれで見積もられた値は、比較的強い相関を示していた。本手法では、先に述べたようにカーテシアン系の調和振動子近似は仮定していないため、従来法を補完する方法になると考えられる。また、位相幾何学的手法で得られる構造特徴の時間変化を追う手法の検討も並行して行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
skeletal coreの概念を使った構造解析法を確立し、さらに、計算幾何学的な解析に取り組んだ。また、directional analysisの方法を発展させて、創薬・生命科学の分野で重要な役割を果たすエントロピーの評価手法を開発した。この手法は、時空間で分割が可能であるため、ダイナミクス分類をおこなう際の鍵となる量として用いることができる。
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今後の研究の推進方策 |
新しい数学的解析手法に一定の成果が見えてきており、順調に進んでいる。特に、エントロピーは、薬剤とタンパク質の結合を特徴付ける重要な物理量である。今後は、さらなる理論の深化と応用をおこない、数学と生物学・創薬科学の橋渡しする基盤を確立していきたいと考えている。特に、エントロピーの振る舞いや計算幾何学的に見積もられる量に注目し、タンパク質-リガンド複合体のダイナミクス分類や親和性予測に結びつけたい。また、実験との比較を積極的におこないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで、理論開発研究が中心となり、モデルも比較的小さなもので研究を遂行したため、計算機使用料や計算機購入がなかったため、残額が生じている。 今後は、大規模系のシミュレーションや実験検証を実施したいと考えており、計算機代や実験試薬代および研究補佐員の雇用で全額を使用することを計画している。
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