研究課題/領域番号 |
15KT0104
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中村 健一 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (40293120)
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研究分担者 |
佐藤 純 金沢大学, 新学術創成研究機構, 教授 (30345235)
長山 雅晴 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (20314289)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 反応拡散系 / 進行波 / 分化の波 / 側方抑制 |
研究実績の概要 |
生体内の不均一な場における化学物質の伝播や情報の伝達を反応拡散系の進行波ととらえることで,生体内で観察されるさまざまな現象に潜む普遍原理の抽出を目標として,ショウジョウバエの視覚中枢や脳の発生過程において観察される「分化の波」に対する研究を行った。具体的には,モデリングを専門とする研究分担者およびショウジョウバエの実験を専門とする研究分担者との連携により,以下のような成果を得ることができた。 (1)脳の形成過程において見られる「分化の波」の進行に関しては,EGFシグナルによって正に制御され,またNotchシグナルによって負に制御されている。一般的にNotchシグナルは側方抑制によって分化した細胞と未分化細胞がたがい違いに配置されたいわゆるゴマシオパターンを産み出すことが知られているが,そのようなパターンはショウジョウバエの視覚中枢の発生における分化の波においては観察されなかった。その原因を特定するために数理モデルの数値シミュレーションと実験による遺伝学的解析を組み合わせることにより,EGFが存在する環境下ではNotchによる側方抑制がゴマシオパターン形成ではなく波の進行を制御するという新たな役割を果たすていることを明らかにした。 (2)通常の反応拡散系は連続的な空間変数を用いて記述されるが,生体内の細胞構造を考えると離散的な空間変数による記述が望ましいことがしばしばある。このような状況を鑑みて,離散的な構造をもつ空間における反応拡散系の進行波について考察し,三重対角的な非線形項を持つ場合には進行波の単調性や安定性が比較定理を巧妙に用いることで証明できることを明らかにした。 (3)関連する問題として,粒子運動の相互作用を記述する数理モデルや反応拡散系に現れるパルス進行波にみられる集団運動の数理解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数理解析班・実験班・モデリング班が密接に連絡をとり,お互いの成果を検証することで,ショウジョウバエの脳の形成過程で見られる分化の波におけるEGFシグナルとNotchシグナルの新たな役割を明らかにすることができ,その成果を論文として発表することができた。 また,生体内の細胞構造を考慮した数理モデルとして離散的な構造を持つ空間における反応拡散系を考察し,その進行波の単調性および安定性について,比較定理を利用することで新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた研究成果を受けて,数理解析,生物実験,数理モデリング・数値シミュレーションを担当するグループ間の連携により,以下のような方針で研究を遂行する。 (数理解析)現在提案している4変数の反応拡散系は厳密な解析が困難であるので,縮約により3変数あるいは2変数の反応拡散系による近似モデルを導出し,進行波解の存在および安定性に関する知見を得るとともに,それを実験班・モデリング班に提供することで数理モデルのさらなる改良に役立てる。 (実験班)ショウジョウバエの生体内のさまざまな機能をノックアウトすることで人為的に不均一な場を生成して,分化の波に与える影響を調べることで数理モデルの検証を行う。 (モデリング)数理解析班・実験班からもたらされる検証結果に基づき,数値シミュレーションを併用して,定量的再現性のある数理モデルの構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が当初予定していた国内出張をスケジュール調整がうまくいかず取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度であるので,研究分担者との研究打ち合わせの回数を当初の計画よりも増やすとともに,得られた成果を積極的に発表することを検討しており,そのための費用として計上する。
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