研究課題/領域番号 |
15KT0107
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩見 真吾 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90518119)
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研究分担者 |
中岡 慎治 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30512040)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 数理モデル / 構造化個体群モデル / ウイルス感染実験 |
研究実績の概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)等の治療において、副作用・治療費・耐性ウイルス出現リスクの軽減や治療効果の増大を目的とし、積極的に多剤併用療法が行われている。現在のところ、治療に用いられる薬剤組合せは臨床試験を通して決められているが、この方法は高額な上、全ての薬剤組合せを試験する事は不可能である。これらの問題を解決するために、治療に用いられる(用いたい)特定の薬剤組合せの薬効を予測できる理論が必要とされている。理想的には、①培養細胞を用いて行った各薬剤の単剤使用時における薬効評価実験データを数理科学的に解析する事で、②任意の薬剤組合せに対するヒト治療時の薬効を定量的に予測する事が望ましい。しかし、多剤併用療法は、単剤投与に比べて多くの要素の相互作用によりその抗ウイルス効果が規定される極めて複雑な治療法である事および試験管内と生体内の環境には違いがある事より、①と②の間には大きなギャップがある。基礎研究の段階では、抗ウイルス薬投与時(特に、併剤時)の薬効を理解する事が極めて重要である事より、本課題では、まず、(I)併剤時の薬効を培養細胞実験レベルで予測する事を目標とする。そして、得られた理論を発展させる事で、(II)動物実験レベルにおける併剤時の薬効予測を実現して行く。即ち、培養細胞実験および実験動物実験から測定した様々な作用機序を持つ薬剤の抗ウイルス効果を数理科学的に解析する事により、計算機内で抗ウイルス薬の薬効評価を定量的に検証・評価し、最適な投与戦略や効果的な抗ウイルス薬を開発するための理論と、それらを実現するための新しい「数学」を構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
HCVの細胞内複製動態を正確に再現し、計算機内で抗ウイルス薬の薬効評価を定量的に実施できる数理モデルを開発できた。HCV 感染細胞では、まず、(1)リボゾームと+鎖RNA:R+(t)が形成する翻訳複合体:T(t)からポリタンパク質:P(t)が翻訳される。ここで、(2)ポリタンパク質はプロテアーゼによる切断を受け、非構造タンパク質:N(t)と構造タンパク質:S(t)を産生する。その後、(3)非構造タンパク質が+鎖RNAと‐鎖RNA:R-(t)と反応する事で±鎖RNAの複製が進む。そして、(4)構造タンパク質と+鎖RNAが集合する事でウイルス粒子:Vc(t)を形成し、(5)細胞外に感染性ウイルス:VM(t)が放出される。反応速度論を用いてこれらのウイルス複製動態を記述した。そして、最尤推定法を用いて、開発した数理モデルを薬効評価実験のデータにフィッテイングする事で各反応パラメータをした(薬剤による抗ウイルス効果は、各薬剤の作用機序に対応するパラメータ値を変化させていると仮定する)。また、数理モデルから得られる数値計算予測と実験から得られる実際のデータを統計的に比較検討する事で、数理モデルの妥当性を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
開発した数理モデルの数値計算結果と薬効評価式を用いて、全ての薬剤組み合わせに対して薬効が相乗・相加・相反的に働く投与量範囲を特定していく。特に、共同研究者が開発したHCV放出を阻害するhalopemideという化合物と相性が良い組み合わせを探索する。さらに、各々の薬剤組み合わせに対して薬効がどの程度増強されるのかを解析する。この様に、数理モデルを用いた薬効の体系的な理解により抗ウイルス薬の開発を加速させる事が期待できる。特に、注意して解析したい点は、数理モデルを詳細に解析する事で、各々の薬剤組み合わせが示す薬効が誘導されるメカニズムである。効率の良い新規抗ウイルス薬、または、最適な投薬戦略の開発に有用な知見を与え、基礎及び臨床医学において極めて重要な成果をもたらすからである。例えば、本アプローチにより、これまで全く解析されていなかった薬剤併用効果を詳細に評価する事が可能になれば、実際の臨床の場における多剤併用療法の効果をより良く理解し、再検討できるようになる。特に、副作用の強い、もしくは、高価な薬剤と併用する薬剤の組み合わせや投与量を最適化する事ができれば、同等の抗ウイルス効果を維持しつつも副作用・医療費の低減を実現する事が期待できる。さらに、数理モデルを用いて耐性ウイルスの出現リスクを最小限に留める薬剤の組合せを探索する事で、長期間な治療効果が望める投与戦略を提案する事も可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請額より減額されての採択であったため、次年度以降の研究計画に費用を回したため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験科学者との入念な打ち合わせおよび海外での情報収集が必要な研究テーマであることより、主に旅費として使用する計画である。
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