研究課題/領域番号 |
15KT0108
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松崎 芙美子 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (10631773)
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研究分担者 |
今井 哲郎 東京情報大学, 総合情報学部, 助教 (10436173)
宇田 新介 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (20599609)
久保田 浩行 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (40376603)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | インスリン情報伝達機構 / リン酸化プロテオミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、インスリン受容で惹起されるタンパク質リン酸化の時系列変化を網羅的に計測後、リン酸化のネットワークダイナミクスを定式化し数理的に解析することで、インスリン情報伝達機構の解明を試みる。平成28年度は、平成27年度までに至適化した計測条件において、タンパク質リン酸化量の時系列データの取得を開始し、取得したデータの定量性の評価やタンパク質リン酸化ネットワークの部分的な推定を行った。 C57BL/6J野生型マウスにインスリンを投与後、経時的に採取した肝臓より調製したリン酸化ペプチドサンプルについて質量分析を行い、タンパク質リン酸化量の定量を行った。個体サンプルを用いていることとラベルフリーでの定量であることから、生物学的なばらつきと技術的誤差が共に大きいことが予想されるため、計測時点につき生物学的・技術的にそれぞれ 3 回ずつ (計 9 回) 反復計測を行った。定量値が得られた13,296のリン酸化部位について、定量データの質とリン酸化量の変動の傾向を確認するために各種統計解析を行ったところ、明らかにタンパク質リン酸化量はインスリン投与後に変化していく傾向があり、インスリンの情報を伝達し得るタンパク質リン酸化の部位 (=リン酸化ネットワークのノード) とそれらの各計測時点での量 (=ノードの重み) が網羅的に明らかになった。 次に、これらのリン酸化を引き起こすタンパク質の探索をkinomeXplorerで行ったところ、3,107種類のタンパク質の10,896のリン酸化部位について、関与が考えられるタンパク質が推定され、インスリンにより惹起されるリン酸化ネットワーク中のエッジが得られた。これらの推定ネットワーク構造とリン酸化定量データを用いることで、ネットワークダイナミクスの定式化が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
肝臓リン酸化タンパク質サンプルの調製は全て終了しているものの、時系列データ取得が予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは引き続きkinomeXplorerにより、各計測時点でのタンパク質リン酸化のネットワーク構造を部分的に推定する。次に、タンパク質がリン酸化されることによって、標的タンパク質のリン酸化の効率が変化するという様な多くの知見に基づき、各計測時点でのノードの重み (=タンパク質リン酸化の量) に応じて次のリン酸化を引き起こす程度が変化すると仮定して、タンパク質リン酸化のダイナミクスを定式化する。定式を用いて、ノードの重要性評価やネットワーク中心性等の特徴量の抽出を行い、インスリン情報伝達機構の数理的特徴を解明する。さらに、ネットワークダイナミクスに大きな影響を与えるリン酸化タンパク質やリン酸化の促進経路を特定した上で、インスリン伝達機構の堅牢性および脆弱性を評価し、それを保証するネットワーク構造を明らかにする。 時間的に可能であれば、既知の構造でなくともリン酸化部位周辺の化学的構造が類似している場合、同一のタンパク質によってリン酸化されると仮定し、さらなるエッジの推定を試みる。推定された全ネットワークダイナミクスの数理的構造を解析し、インスリン情報伝達機構の全貌とその特性を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質リン酸化の定量が予定より遅れているため、それに伴い必要経費も次年度に使用する必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
全てのタンパク質リン酸化ペプチドサンプルについて定量の目処は立っており、また取得済みのデータを用いた統計解析によりデータの信頼性も確認できているため、必要となる消耗品を随時購入しつつ引き続き着実に実行する。
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