研究実績の概要 |
本研究は、インスリン受容で惹起されるタンパク質リン酸化の時系列変化を網羅的に計測してインスリン情報伝達ネットワークのダイナミクスを解明することを目的としており、平成29年度は、平成28年度までに計測したタンパク質リン酸化量の時系列データを用いて、リン酸化ダイナミクスの統計的・情報学的・数理的解析を行った。 計測された約16,500のタンパク質リン酸化部位について、同条件における標準偏差、全時点を通した欠損値の割合や突発的変動などの観点から時系列データをクリーニングした結果、10,700部位のデータが良好であり、以降の解析に使用可能と判断した。この時系列データを用いて種々の統計的解析を行ったところ、明らかにインスリン依存的なリン酸化量の経時的変化が確認され、また、様々な生物学的機能との関連が有意に見られる異なる変動パターンに分類された。このうち159のリン酸化部位については、周辺のアミノ酸配列から既知のインスリン情報伝達分子によりリン酸化が行われていると推定され、既知のインスリン情報伝達ネットワークのダイナミクスとの連動が確認された。さらに、インスリン依存的な時間変動が見られたリン酸化部位について、血中インスリン濃度や肝臓中インスリン情報伝達分子のリン酸化量を入力とする常微分方程式の作成にも成功し、未知のノードを含めたインスリン情報伝達ネットワークのダイナミクスが数理的に表現された。 本研究により10,000にも上るノードを含めたインスリン情報伝達ネットワークのダイナミクスとその生物学的機能との関連が明らかになり、特にインスリン-インスリン情報伝達分子-その他のタンパク質リン酸化の数理モデルが大規模に作成され、巨大なインスリン情報伝達ネットワークの全体像の定量的な解析が可能になった意義は大きく、将来的にはネットワーク異常としての糖尿病病態理解への貢献が期待される。
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