研究課題/領域番号 |
15KT0112
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
池口 徹 東京理科大学, 工学部, 教授 (30222863)
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研究分担者 |
酒井 憲司 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40192083)
島田 裕 東京理科大学, 工学部, 助教 (50734414)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 数理農学 / カオス / リソースバジェットモデル / 隔年結実現象 / 一斉開花現象 / 同期現象 |
研究実績の概要 |
本研究では,近年,非線形科学分野で急速に発達した振動子系における同期現象と,農学分野における植物集団の繁殖期同調現象に共存する数理構造の解明}を通じて,全く新しい植物集団の繁殖期同調現象の数理モデルを構築することを目的とする.さらに,提案して数理モデルを用いて,農作物の生産管理自動化に向けた新たな理論を構築することが眼目である.このように,数理科学的アプローチを農学分野に積極的に導入することで,数理農学とも呼ぶべきフロンティアを形成するとともに,その理論的基盤を構築する.具体的には,以下の項目を重点的に遂行する.(1) 非線形力学系理論に基づく植物の開花・結実メカニズムの数理モデル化.(2) 同期理論に基づく多数の植物個体間の開花・結実期の同調メカニズムの解明.(3) 生産管理自動化に向けた果樹の結実期および結実量の予測・制御理論の構築である.本年度は上記の中で特に(1)について集中的に取り組み,新な数理モデルの構築を行った.具体的には,直接的に観測可能な光合成や栄養塩吸収による資源などの植物への入力データと結実量などの出力データを考慮し,植物内部の資源の振る舞いをモデル化している Isagiらのモデルの妥当性を検証し,内部メカニズムを再現可能な新しい数理モデルを構築した.さらに,この数理モデルの同期過程に関する検討を行い,植物個体間の相互作用や環境ノイズの影響によ同期現象は,非線形振動子の相互作用による同期現象と非結合振動子への共通ノイズ入力によって生じる共通ノイズ同期現象に対応することを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年度では,隔年結実現象と一斉開花現象の両者を同時に説明できる新しい数理モデルを提案した.本内容では,数理モデルの同期現象の立場 (相互結合型の同期と外部入力型の同期) から,隔年結実一斉開花現象を説明することができる.数理モデルに対する予備的な実験では,現実に生じる両現象を再現できている.また,どのようにパラメータ設定すればよいかについても力学系理論の観点から明らかにすることができている.これらの点から,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,第一年度で提案した隔年結実一斉開花現象を再現できる新しい数理モデルの力学的特性を詳細に調査する.特に,大規模ネットワークの結合系の観点から,相互結合型の同期と外部入力型の同期の両者を導入する試みはほとんど見られず,この意味でも非常に需要である.そこで,本研究提案での主体となるリソースバジェットモデルに限らず,種々の離散時間力学系を用いて相互結合型の同期と外部入力型の同期についての検討を行う.また,特にフィールドでの実現象であることに鑑みて,結合させる素子 (リソースバジェットモデル) 数のオーダを10の3乗から4乗程度にした大規模実験も必要である.これも第2年度以降の重要な内容である.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は数理モデルの構築の重要性に鑑みて,その動的特性の解析に主眼をおいて研究を行った.また,この検討結果を中心として考察を行ったために,提案する数理モデルの同期現象の妥当性についての議論を行うべく計上した旅費について使用する額が減少した.また,第1年度では,大規模力学系を用いたシミュレーション,フィールドでの検討にまで至らず,これらのために用意していた人件費・謝金を使用しなかった.このため,次年度使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
提案した数理モデルとそれを用いた大規模力学系の同期現象について,その妥当性を検討し,再現性を向上させるためには,種々の研究集会等で議論することが必要であり,その参加に必要な経費として使用する予定である.また,数値計算による大規模実験も行う.
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